古木信子「御船手(おふなて)物語」の初演を観た。
観ることができて幸運だったというべきであろう。
作者の古木信子さんは熊本市川尻町で生まれ育った。それで川尻を舞台にした物語を書きたいと構想を練っていた。御船手物語は、江戸時代の船頭惣吉と菓子屋の娘の恋物語である。「時代物は難しかった」そうだけど、素朴で純粋な人間の生き様が見事に描かれている。非の打ちどころのない名作。
3/24(土)「御船手物語」の初演会場、赤松館米蔵
ネットでその当時の川尻の御船手について調べてみると…。
加勢川の左岸は、富合町杉島地区で、江戸時代は陸の孤島であった。ここは杉島御船手とよばれ、江戸時代には藩船の乗組員や水夫たちが多く住んでおり、船頭町が存在していた。この杉島と川尻のあいだは、上流から中之島渡し(大慈寺渡し)、杉島渡し、御船手渡しの3つの船渡しで結ばれ、参勤交代のときには、藩主の御座船である波奈之丸(なみなしまる)や、泰宝丸なども入港していた。
御船手には早船を含めて150艘近くの船があり、江湖(川の入り江)にはたくさんの軍船も見られた。藩船の乗組員たちが外城町への買い物に利用していたのがこの御船手渡しであったが、明治以降しだいに衰退していった。
昭和になり、ほかの渡しが廃止されていくなか、外城は買い物で行き交う人びとで賑わっていたが、この御船手渡しも昭和36年に廃止された。当時の石畳は、現在もその姿をとどめており、石畳から対岸を望むことができる。なお、平成24年には、国史跡に指定されている。
3/24(土)赤松館に咲いていた桜
長くなったけれど、これが古木信子「御船手物語」の時代背景である。そんな難しいことを知らなくても、ストーリー展開が面白くて、上質のエンターテイメントに仕上がっている。