大河ドラマ「西郷どん」の放送が始まったばかりである。宇城シティーモール内TSUTAYA書店の通路の目立つ場所に平積みになっているのが、西郷隆盛に関する本である。
「西郷どん」の原作である林真理子の本が最も目立つところに置かれているのは当然である。これは放送が始まる前に読み終えた。西郷の生涯が実にコンパクトにまとめられており、読み易く分かりやすかった。西郷の思想と行動の元となる島津斉彬とのつながりが鮮明である。
明治維新を成し遂げた大政奉還、廃藩置県までの西郷の働きに関して異論をさしはさむ余地はない。理解しにくいと思わせるのは、明治4年岩倉具視を全権大使とする明治新政府の米欧使節団が旅立った後、西郷が留守政府を預かってから以降の行動である。使節団が帰国した後、征韓論を巡る論争に敗れた西郷が下野し、やがて西南戦争の首謀者に祭り上げられていく過程。
あの西郷にして
「なぜ?」
となんとも不可解というべき思いを抱かざるをえないのだ。
そこで試しに手にしたのが、細谷正充編歴史小説傑作選「西郷隆盛」英雄と逆賊である。
ここに集められたのは
1池波正太郎「動乱の詩人――西郷隆盛」
2海音寺潮五郎「西郷隆盛と勝海舟」
3南條範夫「兄の陰――西郷従道小伝」
4古川薫「秋霜の隼人(はやと)」
5植松三十里「可愛岳(えのだけ)越え」。
1池波正太郎「動乱の詩人――西郷隆盛」を読むと、まさしくドンピシャの感覚である。「池波先生、そうなんですよ」とうなずいてしまう。西郷に対して誰もが抱く疑問に、池波正太郎は一つの解釈を提示する。なるほどそういう解釈もあるだろうと思う。
2海音寺潮五郎「西郷隆盛と勝海舟」を読むと、勝海舟「氷川清話」が元になって書かれた小説であり、勝海舟から見た西郷隆盛の実像であり、これにも納得させられる。
3南條範夫「兄の陰――西郷従道小伝」は、西郷隆盛の弟、西郷従道の生涯を通じて、兄隆盛の実像を浮かび上がらせる。征韓論に敗れて鹿児島に下野する直前、兄に従うのではなく、征韓論に反対の立場をとる自分自身の見解に従い明治政府に残るようにと兄隆盛が弟従道を諭す。また下野後も陸軍大将である西郷隆盛が明治政府の軍を担うべき人材を残したことなどが明らかにされる。
4古川薫「秋霜の隼人(はやと)」は洋行する大久保利通が帰国後に征韓論を退け西南戦争を指揮し鎮圧した後に暗殺されるまでを描く。あまりにも大久保利通の評判が芳しくないけれども、明治維新を成し遂げ、明治の世に政治家として活躍した功績は計り知れない。
5植松三十里「可愛岳(えのだけ)越え」は西郷隆盛と愛加那との子、菊次郎の物語。涙なしには読めない。もう西郷隆盛の謎などと考える必要はないのではないか。「もう、よか。」そう思えてきた。
一読をお勧めしたい。


