ジローの誕生日が84日。昨夜、ジローが帰省してきた。紆余曲折あったのだが、ともかく家族とともに誕生祝いをすることになった。


 ジローは大学4年生(やっと)。将来の進路を考えなければならない。大学で何をやっているのかというと、教授の研究の手伝いをさせてもらっている。


 教授の研究テーマは、認知症を軽減させ、治療することができないものか、に関する。


 認知症の原因として、βアミロイド説というものがある。例えば、アルツハイマーは、脳の画像診断によって、脳全体が委縮することによって生じる。βアミロイドが増加することによって、脳の委縮をもたらせるのではないか。いまだ確立された理論とまでは言えないようであるが、これが、現在の通説である。


 そこで、このβアミロイドに放射線を照射することによって減少させることができないだろうか。結果として、認知症の進行を遅らせ、場合によっては治療することにつながるものかどうか。がん細胞に放射線を照射する治療法と似ている。


 いつでも放射線機器をフリーに使わせてもらえるというので、ジローは、ほとんど毎日、日赤病院に通っている。


 全ては、仮説に基づいて臨床実験を積み重ねている段階であって、下世話なものの言い方をすれば、これがものになるのかどうか、それは誰にも分からない。今は、やってみるしかないのだ。結果を先に欲しがってはならない。まさに地道に、根気強く、研究データを積み上げてくしかないのだ。


 全くの無駄だったということも充分に考えられる。膨大な時間と労力とそしてカネの無駄遣いになるのかもしれない。ま、そんなところだ。


 ジローは大学院の試験を受けて、合格したら、このまま研究の手伝いを続けたいと考えている。先の見通しなどない。だけど、やりたいと思うことが目の前にあり、中途で断念する気にならない。やるだけやってみるか。親としては、早々に楽隠居することを熱望しているのだが、もう少しサポートしなければならないのかと、ため息をつくばかりだ。