春っぽくニヤついてくる奴には気をつけた方がいい。こちらの思考が停止してしまうからで、そんな状態で夕暮れに幸男さんは言った。
「アメリカでは資産運用で優雅な老後を過ごすリタイア組は少なくないわな。彼ら、ニコニコしながら、浅草でお土産みてるわな。日本でも、1990年~2000年くらいまでのリタイア組は一瞬それと似たような優雅な老後を過ごす人もいた。ほんと一瞬。ただそれは歴史的に見ても、一瞬の出来事なのは間違いないわな。人間…、働けるだけ働くというのが、日本の歴史でも当然じゃたわな。まあ、食べる分だけでいいんじゃ。」
◆高齢者の役割ーやりがい
年金に対する不安や社会との断絶感のある高齢者は、健康や金銭や時間に余裕があると共に文化的余暇を過ごすことが理想のように思われているが果たしてそうか。企業では従業員が概ね60歳を過ぎたあたりで、役員やスペシャリストとして現役である場合もあるが、多くの従業員は支援的な役務を行っている。最も重要な仕事は次世代の人材育成である。人材育成はこうなって欲しいという理想形だけでなく、失敗体験や反省等の泥臭い部分が重要である。よって、人材育成は優れた技術者に限らない。全ての高齢者は人材育成の能力があると言える。
しかし、全ての高齢者がコーチとしての能力があるかというとそれは疑問だ。自身で「自分は人材育成に向いていない」と思う人もいるだろう。当然である。
よって、人材育成の仕組みがあり、適性のある高齢者をコーチとする機会を設定し、高齢者は人材育成の教育を受ける。社会的な仕組みの中で人材育成を行い、社会とつながり、社会で人材が育っていく。これが高齢者にとっての理想の社会のあり方の一つである。
社会から何も期待されない時間の過ごし方である観光やカルチャーセンターが理想の老後ではないと、現代の高齢者は既に気付いている。
19ー撓んでいる階段は機能的には最悪であるが、眺める分には最高だ。
96ー後悔するとすれば、あの階段をまじかに見つめてはいなかったことだ。』
思いっきりくしゃみをして、リリーは漏らす。私は彼女の鼻水を心配したが、彼女は一切お構いなしだった。
「既に60歳以上だけでなく、65歳を過ぎても70歳位まで終日労働する事は当然になってる。
60歳以上の高齢者をうまく活用できないと、労働者が不足し、国家としては生産性が低下するよね。
無駄に高齢者の能力を浪費したり、高齢者が青年の労働を奪う形になるなど不整合が生じ、さらに国家の生産性は悪化するよね。」
64ー音楽的に言えば、階段は音階である。上と下がある。どこまでもある。
図.7 高齢者の理想形
1)高い所に座らせておく
2)着飾らせておく
3)大事な場面で伺いを立てる
4)皆で崇めるようにする