黒岩比佐子の『食育のススメ』という書籍を紹介する。 2005年6月に食育基本法が制定され、最近 | 松陰のブログ

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黒岩比佐子の『食育のススメ』という書籍を紹介する。

2005年6月に食育基本法が制定され、最近、この「食育」という言葉を耳にする機会が増えました。私も以前から食育には興味があり、勉強してみたいと思っていました。

 「食育」という言葉が始めて使われたのは、食養医学の祖と言われる石塚左玄氏が『化学的食養長寿論』という書籍の中で使用された時だと言われています。しかし、この書籍は専門書でしたので、人々に広く読まれたものではありませんでした。「食育」という言葉を普及させたのは村井弦斎氏で、ベストセラーになった『食道楽』という書籍の功績が大きいようです。『食道楽』という書籍は、主人公の大原満とヒロインのお登和、お登和の兄である中川、大原と中川との親しい友人である小山と小山夫人が主な登場人物で、途中から大原のいとこで許婚のお代、雑誌の発行に資金援助した広海子爵とその令嬢の玉江が登場し、食を中心にして物語が展開する小説です。

 この小説から明治時代の食に関する無知が分かりました。明治期は、今とは違い、公的機関による食品検査もなく、規格の設定もなどが整備されていませんでした。そのため、不良品を売りつける悪徳商人もいれば、食品の安全や衛生に関する意識はお粗末なもので、消費者は自分で食品の良否を判定して買うしかなかったのです。実際に、牛乳や酒に水を混ぜて売る事件が起こっていたそうですし、水ならまだしも有害物が混入したり、腐敗した物が堂々と売られていることもありました。日本に冷蔵庫が登場したのが、1903年(明治36年)年の第五回内国勧業博覧会に出品された時で、一般家庭にはまだ冷蔵庫がなく、当時の主婦にとって、鶏卵を買う時に「いかに新鮮なものを見分けるか」ということと、買ってから「いかに長期保存するか」が大問題だったようです。そのような日本に対し、当時の西洋には、食物にカロリーの概念や食物の栄養素(蛋白質、含水炭素<炭水化物>、脂肪)の知識がありました。西洋の医者は薬物療法と相並んで食餌療法をも実践していて、薬ばかり飲ませても食物が病気に不適当であれば療治も行き届かないという考えを持っていたようです。明治期には日本と西洋では食事、食物に関する知識にかなりの差があったようです。

 明治期に「教育の三育」として定着した言葉が智育、徳育、体育です。現在、智育は知育と表記されるケースが多いのですが、福沢諭吉の『福翁百話』の中にもこの言葉が見られます。少なくとも知識階級の人々の間では、明治初期から、教育の基本は、智育、徳育、体育の三つだと認識されていました。智育、徳育、体育が何に由来するかと言えば、英国の哲学者・社会学者のハーバート・スペンサーが1960年に著わした『教育論』を訳した時に始まります。スペンサーは、「頭の教育、心の教育、体の教育」の三つに分類して考えていました。前述したように、マクロビオティックの元となる食養論を唱えた石塚左玄氏が食育という言葉を使用しました。マクロビオティックとは不老長寿や長生き法を意味するギリシャ語に由来する言葉です。石塚氏が提唱した玄米食や菜食を重視する「正食」と称され、近代日本の健康運動の中で一つのムーブメントになり、海外にも広がっていきました。それが後のマクロビオティックという言葉に転じたのです。

村井弦斎氏は、石塚氏の『化学的食養長寿論』を読み、早い時期から女子教育に関心を持っていた弦斎は、同書の「食育」という言葉に目を留めたようです。『食道楽』という小説には、様々な料理が紹介されています。当時から上流階級では世界三大珍味(キャビア、フォアグラ、トリュフ)のひとつである「雁肝」、つまりフォアグラが食されていたのも興味深い事実でした。明治期から上流階級では、すでに食されていたのですね。ただし、『食道楽』では高級料理の紹介だけではなく、安い材料で美味しい料理を作ることも紹介しています。明治期の主婦の創意工夫が食生活にも活かされていたようです。弦斎氏は、教育の中で「食育」を最重視しています。教育では智育が大切だ、体育が大切だというものの、そのどちらも根本は何を食べるかということにあります。栄養的にバランスがとれていて、衛生的な食物を摂取しなければ、脳も発達しないし、身体も成長しません。たから食育が大切なのだと弦斎氏は述べています。中国の古典書『周礼』によると、中国の宮廷の医療制度では、医師が食医(栄養医)、疾医(内科医)、瘍医(外科医)、獣医の四つに分かれていました。しかも、位の高さもこの順で、疾医よりも食医の方が貴まれたのです。

 弦斎氏は、「程と加減を知る」ことの重要性を説き、食物に関する三つの原則を提示しています。食物に関する三つの原則とは、食物の原則(なるべく新鮮、生もの、天然に近い、寿命の長い、組織の緻密なもの、若きもの、場所の近きもの、刺激の少ないものを食べること)、料理の原則(天然の味を失わない事、天然の配合に近い事、消化という体内の調和を謀る事、五美を具うる事)、食事法の原則(飢えを持って食すべき事、よく咀嚼する事、腹八分目に食する事、天然を標準とする事)です。ただ食べるのでなく、食を科学として捉え、健全な生活を過ごせる生活の知識として活用することが大切なように思えます。私も食には興味があります。これから食育を私の勉学のひとつとして研究し、私の進化を支える学問のひとつにしていきたいと思います。