平成23年3月2日、松原隆一郎著の『経済学の名著30』という書籍を紹介する。 現在の経済学を作 | 松陰のブログ

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平成23年3月2日、松原隆一郎著の『経済学の名著30』という書籍を紹介する。

現在の経済学を作った偉大な経済学者の思想が分かり、勉強になりました。やはり経済学は哲学と類似した経緯を通ってきたように思えます。市民社会の原理のロック。神によって与えられ共有されていた自然資源や生物は、労働を通じて分割され私的所有権を配分されるのです。自分の身体に対する所有権を出発にして、共有の自然へ、そして財産の所有権へと個人の支配圏が広がっていきます。ただし、これには重要な制限があり、他人に危害を及ぼさないようにすること、他人にも十分に自然資源を残しておくことという条件が付いています。そして生命と財産・自由に対する所有権は、当人の「同意」によってしか解除されません(20頁参照)。神の影響下に置かれた学問。また、ロックも道徳的な規範に添った経済学の展開をしているように思えます。その思想を核とし、人身所有権の原理、財産所有権の原理、所有権結合の原理、同意と服従の原理、正義の原理、公共善の原理が生み出されえたのです。

次に、貨幣数量説の原型となる論理を考案したヒューム。ヒュームは神の意志ではなく、経験によって生まれる自生的な協調性である黙約という概念を創造しました。黙約には、「所有、同意による移転、そして約束の履行」があります。ヒュームはこうした人間観や制度観を背後に置き、消費欲望に基づく奢侈とそれを実現する技術が経済を発展させるという経済学を展開させました(27頁参照)。神や道徳観念が経済学に強く影響を及ぼしています。『国富論』で有名な経済学の祖ともいうべきアダム・スミス。古典派経済学を創始したアダム・スミスも『道徳感情論』を著わし、徳の本性を分析しました(37頁参照)。アダム・スミスの敵とみなされた悲劇の経済思想家のスチュアート。スチュアートからは時代の悲劇性を感じました。例え素晴らしい論理を考案しても時代の誤解が評価を下げてしまうのだという無常観や理不尽さを感じました。スチュアートは、貨幣経済の不安定性や有効需要の創出を述べた点ではマルクスやケインズ、発展の段階に注目した点ではリストを生み出す源泉でした。スチュアートは見逃され、読まれても誤解にさらされていたのです(45頁参照)。

功利主義のJ・S・ミル。ベンサムの功利主義に接し、「世界の改革者」たらんことを志したミルは、生産の物理法則を解明した上で家父長制や貴族層の支配を打破し、分配のあり方を変えようと志したのです(81頁参照)。マルクスは、良いにつけ悪いにつけ、経済学界における変革者でした。『資本論』によって共産主義を主張しました(90頁参照)。全ての財の超過需要の総価値観が恒等的にゼロになるというワルラスの法則で知られるワルラス(『ゼミナール・経済学入門』福岡正夫著 190頁参照)。個々の市場での需要が独立で均衡(部分均衡)するのではなく、ある市場が均衡していても他の市場で価格が変動すれば元の市場は不均衡に陥るというように、全ての市場が相互に依存し合い、最終的には全てが均衡する状態、「一般均衡」の概念を提案しました(104頁参照)。

「みせびらかし消費」のヴェブレン(110頁参照)、ユダヤ人かプロテスタントかのゾンバルトとマックス・ウェバーの対立(117頁参照)、イノベーションのシュンペーター(126頁参照)、M2をGDPで割った値であるマーシャルのk(『ゼミナール・日本経済学入門(初版)』日本経済新聞社編著 130頁参照)で有名なマーシャルも興味深く読めました。

そして、私が尊敬する経済学界の巨星・ケインズ。『雇用・利子および貨幣の一般理論』はワルラス以降、新古典派が工学化を推し進めていた経済学を、人間社会の学=モラル・サイエンスの圏内に復帰させようとした記念碑的作品です。消費意欲や将来の儲け予想、漠然とした不安など様々な社会心理が揺れ動き、資産として貨幣がどれだけ保有するかによって現在の景気が良くも悪くもなります。ケインズはそうした将来についての主観的なビジョン(期待)が社会的なコミュニケーションを通じて揺れ動き、現況を定めるドラマとして、経済を描いたのです(193頁参照)。その他、限界革命のメンガー(154頁参照)、所有と経営の分離のバーリー=ミーンズ(172頁参照)、経済学を普及させたサムエルソン(201頁参照)、不確実性のガルブレイス(230頁参照)、新自由主義のフリードマン(247頁参照)、『もしドラ』で有名になったドラッガー(220頁参照)、記号論的な消費のボードリヤール(265頁参照)、進化論的経済学のハイエク(117頁参照)など、名著として選んだだけあり、どの経済学者も一読するに値する名著の紹介でした。経済学の変遷や経済学の基礎を学ぼうとする人間には的確な指南書になる書籍だと思います。