切り抜きがん情報 0490  2022年10月21日

 

 

(2022年10月23日)より

 

 

がんの痛み緩和、

薬だけでない 

神経ブロックや放射線も

 

腹腔神経叢ブロックの様子=中部徳洲会病院提供

 

がん患者の体の痛みなどを和らげる緩和ケアで、薬以外の手段を知っているだろうか。膵臓(すいぞう)がんなどに伴う強い痛みを抑える神経ブロックや痛みや出血などを軽減する緩和的放射線治療だ。医学的に有効な手段として認められているが医師の連携不足などもあり十分に活用されていない。患者も知識を持って医師に積極的に相談できると、緩和ケアの幅が広がりそうだ。

 

がんなど命を脅かす病気の患者へは、治療に加えて緩和ケアが重要になる。治療は主に病気の根治と生存期間の延長を目標とするのに対し、緩和ケアは体の痛みなど患者の様々な問題に対処して生活の質(QOL)を高めるのが狙いだ。ただ緩和ケアによって生存期間も延びるとの報告もあり、明確に区別できるとは限らない。

 

中部徳洲会病院(沖縄県北中城村)に入院していた膵臓がん患者の70代女性は、腹部や背中の痛みが強く鎮痛薬や医療用麻薬を増やしてもつらかった。眠気が強く食欲もなくなり家に帰る自信がなく「孫に会ってもつらいだけ」と訴えていた。

 

主治医から勧められ、女性は緩和ケアとして神経ブロックの一つ「腹腔(ふくくう)神経叢(そう)ブロック」を受けた。内臓から脳へとつながる神経を薬剤などでまひさせて痛みを伝えなくする仕組みだ。受けた後は痛みが抑えられたほか、眠気がなくなって食事を楽しめるようになった。「早く孫に会って抱っこしたい」と前向きにもなったという。

 

その後がんが進行して短期間の入院はあったが、医療用麻薬の量は抑えられたままだった。

 

実施した同病院・統合麻酔診療部の服部政治統括部長は「がんに伴う痛みは医療用麻薬などだけでは十分に取り切れないことがある。神経ブロックや、脊髄付近に麻酔薬を入れる脊髄鎮痛法も有効だ」と話す。

 

医療用麻薬はがんに伴う痛みにもちろん有効だ。だが強い痛みを完全に抑えきるのは難しく、眠気などの副作用もある。薬物治療で十分な鎮痛効果がない人や副作用で使いづらい人は、がんで痛みのある患者の1~3割という報告もある。腹腔神経叢ブロックをはじめとする神経ブロックや脊髄鎮痛法はこうした患者の痛みに効果が高く副作用も少ない。海外でも推奨される。脊髄鎮痛法は無痛分娩などでも活用される方法だ。

 

がん患者の痛みの軽減は重要な課題だ。国立がん研究センターの遺族への調査によると、患者が亡くなる前の1カ月間に痛みが少なく過ごせたとしたのは5割以下にとどまった。死亡する前の1週間は約30%が強い痛みを感じていた。同センターは「苦痛の緩和には改善の余地がある」としている。

 

特に強い痛みをともなうことが多い膵臓がんなどではなおさらだ。腹腔神経叢ブロックなどを併用するとより効果的だということは専門家の中では知られている。ただし、実際に受けられないケースも多いという。

 

国立がん研究センターの別の調査によると、がん診療連携拠点病院の約4割が「痛みのある膵臓がん患者に腹腔神経叢ブロックを実施できない、またはしていない」と答えた。技術的に実施できる医師がいないことなどが理由だという。

 

一般の病院では同回答が約9割を占めた。こちらでは、患者が腹腔神経叢ブロックの対象になるか判断できる医療従事者がいない、判断について相談する窓口が分からない、などが障壁に挙がった。

 

服部統括部長は「患者の主治医などから神経ブロックなどができる専門医への依頼が減ったため、専門医が経験不足になりできる人が減るという悪循環が起きている」と打ち明ける。中部徳洲会病院のチームは腹腔神経叢ブロックに力を入れており実施数が多い。服部統括部長は後進の育成にも力を入れる。

 

緩和的放射線治療は放射線を病巣に当てることで、痛みなどを抑える。なぜ緩和できるのか詳細にはわかっていない部分も多いが、効果は確認されている。骨転移の痛みのほか、腫瘍からの出血や脳への転移なども対象になる。東京大学の中川恵一特任教授はメリットについて、「放射線の照射時間は数分で済み、入院の必要が無いのも大きい」と話す。ほとんどが保険診療の範囲で実施でき、患者の金銭的負担が少ないのも利点だ。

 

ただ、一般の病院などでは神経ブロックと同様に、「患者が対象になるのか分からない」ために他施設への紹介が進まない場合があるという。緩和ケアに詳しい東大の片野厚人講師は「直腸がん患者の親族が緩和的放射線治療について調べて提案したが、主治医が理解を示さなかったという例もある」と話す。この患者は肛門からの出血があったが、緩和的放射線治療によって改善したという。普及には手法についての医師の理解や連携も必要そうだ。

 

 

  診断されたときから開始

 

患者の不安や仕事と治療の両立への悩みなどは治療の早期から生じることも多い。例えば、がん告知時の心理的負担だ。がん治療の専門医で、自らもぼうこうがんを経験した東大の中川氏は「診断された際はかなりショックで鬱のような状態になった」と打ち明ける。


ただ心理的な負担が大きい場合でも臨床心理士や精神腫瘍医などの専門的なケアがあれば、うつ病や適応障害などになるリスクは抑えられる。中川氏は「緩和ケアはがんになったときから始まるという認識が広がってほしい」と訴える。


内閣府の調査では、緩和ケアを始める時期について「診断されたときから」と答えたのは5~6割で、「治る見込みが無くなってから」が2割を占める。


悩みや不安に対応できる窓口「がん相談支援センター」もあるが、国立がん研究センターの18年度調査によると、患者の約34%は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

記事はここまで。

 

 

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