目の届く範囲で遊びなさいーー置石事件で下った親の裁定で家廻りの遊びに終始した悪童達は制約も何のその、新しい遊びを創造して飽きなかった。”モク拾い”を騙す偽装モクづくりに続いて取り組んだのが、”禿当てゲーム”だった。

 2階にあった空中のひじかけベンチのような小さな木造敷を利用して、階下の道路に向けて仕掛ける遊びの工夫を考え付いた。その一つが禿当てゲームである。当時の成人男子は帽子をかぶる人が多かった。二階から見下ろしていると、帽子の下の髪型が判らない。若いと思っていた人が、意外に老けていて禿頭だったり、丸刈りだったりする。白髪いっぱいの人だっている。この意外さを当てるというゲームだ。飴玉のやり取りが伴って、ゲームは熱を帯びた。

 向こうから、帽子をかぶった紳士が歩いてくる。どう見ても年配者だ。頭髪が薄くなっているのは容易に想像できた。禿当てだけではゲームにならない。なので、禿具合を当てることにした。全禿か8部、5部、3部と4段階に分けた。それぞれが予想の割合に賭けた。あとは、老紳士が帽子を取る瞬間を見届けるだけ。しかし、何もしなければ通り過ぎるだけだ。そこで一計を謀って、二階から水鉄砲を帽子めがけて発射することにした。帽子に水が当たれば、「雨降りか?」と帽子を取って空を見上げるだろうという算段だ。

 優秀な射撃手と目されたA君が、水鉄砲を構えている。凹んだ帽子の登頂部分に狙いを定めて発射。見事に狙い通りのところに着弾。しかも、予想通りに老紳士は帽子をとって空を見上げたのだ。息をのむ悪童達。なんと、見事なほどの「全禿」だった。

 この経緯には、後日談があって、二学期の始業式で新しく赴任してきた校長の挨拶があったのだが、挨拶をする新校長の顔を見て一同は声を失った。「あの時の、全禿だ・・・」