2月16日(月)


ちょっと真面目に文学のお話をしましょう


まささん仕事は天然氷屋さん

昔ながらの氷室に貯蔵しています


この氷室については古典の日本書記や枕草子に記されており、古代からどのように氷を保存するか関心が高かったものと想像できますね。


日本書記には仁徳天皇の弟が狩りの途中に氷室を見つけさっそく氷を譲り受け天皇に献上したところ大変喜ばれたとあります。昭和63年に発掘された長屋王(684~729年)遺跡の木簡にも氷室の構造や氷の用途などが書かれていました。枕草子(10世紀)にも高貴なものの一つとして削った氷に甘葛のシロップをいれたかき氷の描写があります。 (参考文献 月刊「地理」2009年7月号 特集 夏を涼しく )


天然氷製造は明治~大正にかけて全盛でしたからその時代を描いた小説にも氷室はよく登場します。

中でもよく知られているのが松本清張の『天城越え』です。

ちなみに石川さゆりの『天城越え』のテーマはたぶんこの小説の薄幸の主人公 大塚ハナとは全く関係なく不倫の心情描写として天城峠の険しさを用いたんでしょうね。『越え』の意味は峠のことらしいですから。「あなたと~越えたい~ 天城~越え」 越えが重複していてもいいわけですね。


明治37年に旧天城トンネルが開通し、下田と湯ヶ島間が天城隧道として整備されました。川端康成の『伊豆の踊り子』もこの道を 通ったことになりますね。この道すがらに天然の氷池と氷室があり作品中重要な場面として登場します。


あらすじ

時代背景は大正7年の伊豆 家出したものの疲労しあきらめて引き返した少年(16歳)と借金を残し足抜けして逃げる途中の酌婦ハナ(23歳)はトンネル近くでいつしか同行となります。互いに無一文です。途中出会った土工と話があるからとハナは少年を先に行かせます。しばらくしてそっと引き返した少年は藪の中で抱き合う二人を見てしまいました。3人が互いを意識しない程の距離で下田方向に歩き出しましたが土工が荷物を直すためにかがんだ瞬間少年が駆け寄り首筋に切り出しナイフを突き立ててしまいます。ほんの短い時間でも優しく接してくれた年上の女性が蹂躙されて生まれた殺意でしょうか。その後たまたま見つけた氷室で一夜を明かし少年は家に戻ります。やがて事件の捜査が始まり現場近くの氷室のおが屑にちいさな裸足の足跡が見つかり、また通行人の証言からハナと少年が浮かびます。ハナは氷室の足跡のことを知り少年の仕業と気づきつつも一切弁明せずに厳しい調べを受けますが証拠不十分で釈放されます。担当刑事も薄々犯人は誰かわかりつつも事件は迷宮入りになる。


氷室の描写は正確で清張が実際に氷室に入り取材しただろうとうかがわせます。1959年の作品ですからその頃までは天城山麓に天然氷製造が残っていたのかもしれませんね。現在は復元された氷室と氷池跡 が当時を忍ばせているようです。


かつてごく当たり前に各地に存在した氷池や氷室も現役で稼動しているのは今や数えるほどですが

軽井沢、秩父、日光に伝統の技が伝承されています

その一翼を担えるというのは幸せでありまた重く受け止めなければいけないと身の引き締まるまささんなのです。