【Day63 2025.11.5 アグディナ→ラサ 34km】 の続き
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バルを出ると強風はかなりやわらいでいた。
カフェ・コン・レチェのおかげか、二人からのメッセージのおかげか、実際に気温が上がっていたのか、なんだかほっこりとした気分で歩いた。
そしてこれまでのことを思い出した。
私が今回のカミーノを歩き出したのは9月の満月だった。
それが歩けなくなって、帰国も覚悟したのが10月の満月だった。
11月の満月は月が拝めない暴風暴雨の中、サンティアゴに向かって歩いている。
そして12月の満月を、私がスペインで過ごすことはできない。
そう思うと久しぶりに涙が出てきた。
それはカミーノが終わっちゃうのが寂しいとかじゃなくて、いかに幸せな旅をさせてもらっているかという嬉し涙だった。
28km先の町のアルベルゲはやはりやっていないようだった。
はああ、とため息をついて、私はすぐに歩き出した。
あと6km。この雨の中、トータル34kmである。
それでも、足は言うことを聞いてくれた。
少しづつ、強くなっている。
町についてチェックインを済ませると、空がいきなり明るくなった。
そうだった。
この物語の脚本は、私が書いたんだった。
だから安心して自分の役に没頭すればよい。
晴れたと思った空は一瞬でまた雨に変わった。
それでも私の心は晴れやかだった。