長いので2話に分かれています
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【Day38 2025.10.11 アルデア・デル・カノ→ バルデサロル 11km】
午前3時
今日のアルベルゲはオーストラリアのグラントさんと、自転車で旅するアイルランドのおばさんと私の3人だ。
ドミトリーだがベットルームは三室あったので、贅沢に一人一部屋使わせてもらって個室状態だった。
にも関わらず昨日早く寝過ぎたせいか、3時に目が覚めてしまった。
寝落ちするyoutubeを流してみるものの、眠れない。
結局そのままダラダラと朝を迎えた。
日に30km以上歩くグラントさんは、毎朝5時に起きるという。
実際、トイレに行くのに部屋を出るとダイニングにあかりがついていた。
起こしちゃったかな、と気にかけてくれたが、もともと起きてたの、と返す。
足の調子も悪くないし、早く起きて暇だし、カセレスまで23km歩いてみようかな、そんな気持ちになっていた。
グラントさんにそのことを話すと、カセレスはどの宿の今日はフルだよ、ホリデーだからねという。
そういうこともあるのか。
土日は気をつけることが多そうだ。
結局今日は、昨日の計画通り11km先の町まで歩くことにする。
早く出過ぎてもしょうがないので、アイルランドのおばさんも見送ってから出発した。
順調と思われた足だが、歩き始めると痛みが響く。
寝不足のせいだろうか、昨日より状態は悪い。
11kmにしておいて正解だった。
牛しかいない平原をひたすら歩く。
痛みを感じたらこまめに休憩を取るようにした。
何人かの巡礼者に抜かされる。
これまで出会った巡礼者はみんな先に行ってしまった。
今日会う人は初めて見る顔しかいない。
挨拶だけで通り過ぎてゆく。
途中で転んだり、引っかかったりして、足の痛みが気になって仕方がない。
二日歩いてみて、カセレスで止めるという選択肢は私の中でなくなっていた。
歩けるところまで歩きたい。
目下の考え事といえば、カセレスの先に控える33kmを歩けるかどうかだった。
加えてその先もこのペースでしか歩けないとしたら、ビザの期限内に終わるのか。
もう一度、メリダ前後の症状が発症したら終わりだろう。
休憩中、ぺぺに教えてもらった音楽をかけた。
それを聞きながら空を眺める。
鷹だろうか?鳶だろうか?
一羽の鳥が羽を伸ばして上空を高く飛んでいる。
そう思ったら他にも何羽か飛んでいて、ちょうど視界の上で重なった。
歩き出すと、なんだか足元ばかり見ていたなと気付かされる。
アムステルダムのノードさんに、
今ある時を、自然を感じるだけでいいんじゃない?
そう言ったのは私なのに。
その時ふと気付いた。
相変わらずサンティアゴまで歩くということにこだわり、ぎゅっと、ぎゅーーーっと握り締めていたのは私ではないかと。
アルフセンで一度は手放したつもりだったのに。
少しでも可能性が出てきたら、またぎゅーっとぎゅーっと、抱きしめている。
手放そう。
歩けるところまで歩く。
それで十分なはずだ。
歩いていることを楽しみ、味わおう。
景色を、空気を、音を、匂いを、身体の鼓動と叫びを。
大きな大きなビーチボールを空に向かってトスするように。
手放そう。
ボールがどこに落ちるかなんて、知ったこっちゃないのだ。
実際に両手を使って、空に向かってトスする仕草をやってみた。
手放すのは簡単ではない。
きっとこれからも、何度も何度も囚われるだろう。
何度も何度も握り締めてしまうだろう。
それでも、そしたらその度に手放そう。
泣きながら、笑いながら、歯を食いしばりながら。
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つづく