【Day27 2025.09.30 メリダ→ アルフセン 17km】
朝7:00
出発とともに意を決してその機械をゴミ箱に捨てた。
携帯に脱着できる、動画を撮るための機械(DGI製品)だ。
去年、francigenaを歩く前に日本で買ったものだった。
揺れを防ぎ、ズームイン・アウトが手元の操作でできたり、脚をつけて固定カメラになったりするもので、1万円以上した。
電力消耗が激しいため、去年は結局、歩きながらは使用せず、自炊の際に固定カメラとして数回使っただけだった。
今回に至っては一回も使っていない。
しかし重量はそこそこある。
1gでも軽くしたい今、何かを断ち切るようにゴミ箱に捨てた。
足の調子は昨日の日中より悪くなっていた。
昨日、誘われるままにショート観光したことを悔やんだ。
経緯は、私がバルのテラスで飲んでいると、アルベルゲで話した自転車で旅するおじさんがやってきて、座っていいかと言う。
どうぞと促し、彼が一杯飲むのを見守った。
その流れで、メリダに来てローマン劇場を見ないなんてあり得ない、と観光を勧められる。
足の痛みの休養のためだからと断るが、まだ開いているし、自転車で行けばすぐだ。後ろに乗せるからと言われて、それならと乗ってしまった。
おじさんは二人乗りをしたことがないらしく、さらに自転車にも気を遣い、よたよたするばかり。
人混みと坂で、結局、自転車に乗ったのなんてほんの一瞬だった。
ローマン劇場まで来たものの、外壁で中はほとんど見えない。
お金を払って中に入り、ゆっくり観るなんて、今の私の足ではそれこそ無理である。
一体、何しに来たのやら。
帰り道、好き勝手なことをペラペラと話すおじさんは、私を自転車に乗せる気さえなさそうだった。
”アジアの女性が好きなんだ。“
そう言われて私はいよいよ腹が立った。
”女性はそう言うことを言われるのが嫌いです。アジアの女性って一括りにされても、一人一人違うでしょ”
というとおじさんは、
”君の言いたいことはわかる。でもアジアの女性の容姿は魅力的なんだよ。僕にとって...“と止まらない。
全く分かってないではないか。
昨日のことを思い出すと、調子に乗ってあんな誘いを受けてしまったことが悔やまれる。
行くべきではないことはわかっていてはずだ。
しかし、メリダ観光の誘惑に負けてしまった。
それに街を自転車で散策なんて、動画でも日記でも良いネタになるだろうと、結局、自分自身の淺ましい気持ち、下心が働いたのだ。
おじさんのことを責められたものではない。
それに私だって欧米人をすぐイケメンだと思ってしまう。
口に出すか出さないかの差だ。
結局、目の前の人は自分の体現でしかない。
ああ、あの機械と共にそんな淺ましい自分を捨て去りたい。
マルセルとベゴとの、ただ好きだから一緒にいて、お互いできることをする関係性が如何に貴重か、思い知らされた。
二人には下心なんて一切ない。
そんな二人に出会えたことが、どれだけの奇跡だったことか。
二人に会いたいなあ。
そう思った。
二人は約75km先のカセレスまで4日間かけて歩き、翌日はカセレス観光をして、今回の旅は終わりである。
1日遅れでも私が順調に歩けば、彼らのカセレス観光にあたる金曜に会えるはずだ。
二人はカセレスで食事をしようと誘ってくれた。
メリダでお別れする時、私は二人に小さなギフトを渡そうと思っていた。
トトロのピンバッジである。
以前、誰にあげても良いだろうと海外へのお土産用に購入したものだった。
結局、誰に渡すでもなくバックパックに入れっぱなしになっていたものが、ちょうど二つあった。
二人のバックパックに付けてもらえたら嬉しいなあと思っていた。
しかし、メリダでは結局渡せず仕舞いになってしまった。
二人は私が何かすると倍以上にお返ししようとしてくれるから、なるべく最後に渡したかったのだ。
まだカセレスがある、その時はそう思っていた。
しかし、この足でカセレスまで行けるだろか。
もしカセレスで会えなければ、サンティアゴの後、ベゴに会いにマラガに行こうか。
ベゴはいつでも来てねと言ってくれた。
きっと喜んで迎えてくれるだろう。
ふと、私はもう、大切なものを見つけたのではないかと思った。
二人との関係は、私がこれまでの旅で培ったことのない、ピュアでまっすぐなものだった。
足の痛みはどんどん酷くなっている。
カセレスの先は三十数キロ、アルベルゲがない区間があるそうだ。
私はおそらくどこかで数日間、回復を待たなければ、この先を歩くことはできないだろう。
これまで経験したことのない、足の痛みと迫られる選択に、涙が頬を伝った。
ーーー
そんな今日の旅の様子はこちら↓