【Day24 メデジン→ トレフレスネダ 17km】
久しぶりのホステルは、白を基調とした屋根裏の可愛らしい部屋だった。
最上階の6階まで階段で登るのはキツかったが、ワンフロア左右で二戸の客室は中央にテラスが備えていて、部屋にはそのテラスに向かって小さな小窓が付いている。
夜、テラスにで見るとライトアップされた橋と河辺のバーで楽しむ人々が見えた。
美しい夜景とふかふかのベット。
居心地のよい幸せな一晩を過ごした。
朝7時。
今日泊まる町でマルセルとベゴに合流する。
目覚めに、ベゴに何時に出発するのか確認のメッセージを入れた。
寝ぼけまなこで携帯の音楽を再生すると、テイラー・スイフトのシェイク・イット・オフ、次にマーロンファイブのサンデーモーニングがかかり、ノリノリで支度に取り掛かる。
が、次にかかったのは踊るぽんぽこりんで、思わずずっこける。
一体、私のプレイリストはどうなっているんだ。
今日も足の様子見で17km程度の歩き。
朝8時に出発した。
歩き出し当初から、脚の付け根から膝にかけて痛みが走る。
特に右の方が痛い。
歩けないことはないのだが、時々、力が入らないような感覚もある。
本当に力が抜けてしまったら転んでしまうのではないかと、一歩一歩が丁寧になる。
無論、今までのペースでは歩けない。
平坦でわかりやすい17km程度の道。
今までであれば一回も休憩を取らずに歩くことができた。
それが1時間もしないうちにどこか休めるところはないかと探してしまう。
今まで、踵の痛みや疲労による辛さは経験があったが、膝の痛みは今回が初めてだった。
いつもは一晩寝れば70%は回復し、少なくとも歩き出しから痛みを覚えるなんてことはなかったため、対処方法がわからない。
これまで膝の痛みでびっこを引くように歩く欧米人を見てきたが、こういう症状だったのかと初めて自覚する。
原因はわからない。
荷物の重さか、ストックの使い方が悪いのか、ストレッチが足りないのか。
なにしろ初めてなのだ。
明日はメリダまで25km歩かなければいけない。
17kmでこれでは不安しかない。
カミーノではその人に必要なことが起こると言う。
10年前歩いたときも、体調を崩したり怪我をしたり、あるいは思わぬトラブルに遭遇し、予定を変更せざるを得なくなる巡礼者を目の当たりにした。
しかし、そのおかげで出会う人や出会う出来事があるのだ。
中には帰ってしまう人さえいた。
それはそれで、必要なことなのだろう。
私がサンティアゴまで歩くことを曲げることは決してない。
なんていうか、それは決まっていることなのだ。
それでも、できれば気持ちよく歩きたい。
ああ、神様。
ゆっくり進めと言うならその通りにしますから、どうか最後まで歩かせてください。
そうお願いすると、
“終わらないでほしいと願ったのはあなたでしょ?“
と浮かんできた。
ああ、これだから気安くお願いなんてするもんじゃない。
ゆっくり、味わいなさいと言われている気がする。
昨日、城を見に行けたのは、時間と体力に余裕はあったからだ。
元気だったらギリギリの距離を攻めてしまい、到底、そんな余裕はなかったに違いない。
そもそも、あの町に泊まることさえなかったはずだ。
全ては起こるべくして起きているのだ。
何も案ずることはない。
今日は気を紛らわせるため、歩きながらも音楽をかけて大声で歌って歩いた。
マルセルとベゴとも合流し、楽しい1日が待っている。
明日にはメリダに着く。
そしたら休養日を設け、のんびり過ごそう。
また二人と別れてしまうのは寂しいが、ゆっくり、味わって進みなさいと言われているのだ。
マラガを出発してから、街の様子は白壁にオレンジレンガの屋根一択だったのが、いつの間にか石造りの壁も有するようになってきた。
ベゴによれば、この辺りからカセレスの先までは、エストレマデューラという地域で、1900年代の国の政策で同じ街並みが続くそうだ。
いつに間にかアンダルシアを通り過ぎていた。
中央の広場を囲うように教会があって、役所があって、バルがある。
それだけだとベゴは言う。
そう聞くと、なんだかもの悲しい街並みに思えた。
明日はこの旅で初めての雨だそうだ。
まだまだ味わうべきものがたくさんある。
行き急ぐ必要はない。
味わいなさい、そう言われている。
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