【Day16 セロ・ムリアノ→ビリャアルタ20km】
朝5時45分
日中の暑さが残るのか、ぬるい風が吹く。
まだ誰も活動していな街を抜けて、高台にある広場に着いた。
中央奥の地面にはタイルで大きな円が描かれていて、中心には東西南北を示すコンパス、その脇には星の観測地である旨の看板が添えられていた。
当たり前だが真っ暗で誰もいない。
バックパックとスティックを降ろして靴を脱ぎ、円の脇にあった石のベンチで仰向けになった。
満点の星空。
なのに私が認識できるのはオリオン座くらいだ。
こういうとき、もっと星座を知っていたらよかったのに、と思う。
ネットで軽く調べて星を追う。
カシオペア座、北斗七星、あれが北極星だろうか。
去年、ロンドンからローマまで歩く途中に出会ったフランスの青年は、宿より野宿を好んだ。
川がシャワーで大地がベットだと言っていた彼の気持ちが、少しだけわかるような気がした。
ダークブルーの空にに貼り付けられたような星空。
それが、それぞれ宇宙の違う距離から放たれた光だと思うと不思議な気分になる。
かつて、ヨルダンのワディラム砂漠で野宿したことを思い出した。
熟睡できず30分おきに目を覚ましてしまうのだが、それは北極星を中心に天空が回転する天然の天体ショーだということを初めて知った。
“Catch the time”
ガイドのベドウィンにそう言われた。
あの頃より、私は時間を捕えられるようになっただろうか?
おおよそ捉えられないスピードで、流れ星が視界の端を掠める。
誰か、星に願いをかけられる人がいたらやり方を教えてほしい。
地平線の少し上では、お皿のように上を向いた細い三日月が見えた。
旅の当初はあれほど丸く煌々と空の中心で輝いていた月が、今は全ての天体を受け皿のように低く、上を向いて凹んでいる。
少しづつ、時を重ねている。
そのことを深く実感させられた。
月の下に一層美しく輝くは星は、金星だそうだ。
地平線にゆらめく輝きは、コルドバの人々の営みだろうか?
コケコッコーの鳴き声だけが響き渡る。
小腹が減った私は、道中でもぎ取ったアーモンドを歯で割って、中の身を口に放り込んだ。
覚えのある食感とともに、香ばしい香りが鼻を抜ける。
噛み砕くたびに上質な油が口の中に広がった。
ああ、なんて特別な時間なのだろう。
そう思うと同時に、本当は特別ではないのだとわかった。
いつだって星も、月も、夜空も、太陽も。
ニワトリも、街も、アーモンドも。
私たちを見守っている。
それを見ようとしないのは、私たちの方なのだ。
いつだって世界はあなたを愛しているし、いつだってあなたは世界に愛されている。
Catch the time.
私たちは時を捕えられているだろうか?
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そんな今日の様子はこちら↓