2025年9月5日
バックパッカー宿には独特の空気がある。
チェックインにはやたらと時間がかかる。
スタッフは大抵一人にも関わらず、キッチンやバスルーム、入退室の方法など、説明しなければならないことが多すぎる。あらゆる問合せにも対応するため、待たされることもしばしばだ。
キッチンはまるで戦場。
特に共用の冷蔵庫はひどい。
腐りかけの果物に使いかけの生ハム、飲みかけのジュース、雑多な種類と大きさのビール。
それぞれ異なる字体で名前の書かれた品々が、すでにぎゅうぎゅうに押し込められている。
もうチェックアウトした者のものもあるのだろうが、スタッフも判別がつかないのだろう。
スーパーで多めに買ってきた食品を前に私も頭を抱え込む。
一体このどこに入れろとう言うんだろう?と悪態を吐きながらも、なんとか押し込むのだから不思議なものだ。
テラスでは人間模様が開幕見える。
中央の席を分捕り、大声で大量のリゾットを分け合う8人組は、おそらくここに留まるうちに出会った仲間たちだろう。
キッチンで私に声をかけてきた男の子を含む3人組は、黙々と食事を進めている。一人は太った黒髪スパニッシュ系の女の子。もう一人は痩せた赤髪カールの女の子。いったいどんな関係なんだろう。
奥のテーブルで一人物思いにふける上品なマダムは、チェックインと買い物帰りに遭遇した。バックパックから推測するに、もしかしたら歩き人なのかもしれない。
端の席でイヤホンで外界を遮断するのは、キッチンで謎にレモンを半分くれたアジア系の小柄な女性。私を含め、アジア人は年齢不詳だ。
その後ろには母国?との通話に遠慮がないツーブロックの白髪頭をまとめたメガネのイケメンオヤジ。
斜め横には酒もタバコもなし、一人テラスを眺めるタトゥーとピアスバリバリの、真っ白で金髪の訳あり青年。さっきキッチンでトマトソースのなにかを作ってたな。
そんな彼らを後ろから眺める私だって、相当謎だろう。
年齢が謎。国籍も謎。渡航理由も謎。
バカ盛りサラダを500mlのサンミゲルで流し込む年齢不詳の黒くて小デブのアジア人だ。
ここに来なければ一生出会うこともない、それぞれの人生を生きる地球上の仲間たち。
そんな彼らの人生がここで交錯する。
そうしてゆっくりドラマが始まっていくのだ。
そんなバックパッカー宿を居心地が良いと感じてしまう。
私もその一人である。
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