約束の場所(世界の旅~インド・ブッダガヤ編~)第13話 | ちびタンクのひとりごと

ちびタンクのひとりごと

大好きな旅のこと、心理学・スピリチュアル・ヨーガのこと、日々の気づきなどをつぶやいています♪

こんにちは☆ しずです。


あああ。昨日は散々だったな(ノ_-。)


今日はお出かけ前に書いちゃいます~。


では,続きです。


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「はい。日本から来ました。」


彼女の流暢な日本語に,私も日本語で返した。


「そう。ここへどうぞ。」


彼女に促され,隣に座る。


年は,30代後半くらいであろうか。

小麦色に焼けた小さな顔に,くっきりとした印象的な目と,

やわらかい笑顔を湛えた,美しい方だった。


「一人で来たの?」


「はい。一人旅です。」


「そう。いいところでしょう?」


「はい。感動して涙が止まりませんでした」


「そう。それはよかった。」


彼女は遠くを見ながら言った。


あたりは既に暗くなっていたが,

ステューパはライトアップされていて,

その左頭上に輝く三日月とが,まるで絵葉書のように美しかった。


夜にも関わらず,園内はまだ参拝客でにぎわっていて,

なんだか,お祭りや花火大会の日の夜のような雰囲気を感じさせた。



「あの。日本の方ですか?」


「ううん。タイ人よ。夫が日本人なの。」


「なるほど。すごい日本語がお上手だから,日本の方かと思っちゃいました。」


「ふふふ。」


彼女は静かに笑った。



私たちは,いろいろな話をした。


彼女はタイ人で,ブッダガヤのタイ寺にお手伝いに来ていること。


夕涼みと一日の最後の参拝がてら,

毎晩,こうやってステューパの脇で,みんなで談笑するのが日課であること。


隣の人が撫でている犬は,飼っているわけではないのだが,

いつのまにかなついてしまって,皆でかわいがっていること。


ブッダガヤの旧正月は,もっと多くの,世界中の仏教徒が集まり,

そこかしこでお経が唱えられ,それはそれは美しいこと。


「旧正月かあ。来てみたいなあ」


「ええ。是非いらっしゃい。本当に,素晴らしいわよ。」


彼女はうっとりとした表情で言った。

冬のここを想像してみた。

ピンと張った空気の中に響くお経。

それはそれは,崇高な空間であることだろう。


私は昨日から今日にかけて,起こったことを彼女に話した。


「あなたがお世話になったのは,とてもとても偉い尼さんよ。

あなたは日本に帰ってから,自分がどれだけ貴重な経験をしたか,

気づくことになるわ」


「そう思っていました。

既に,とても貴重な経験をさせて頂いたと思っています」


私は答えた。


しかし本当の意味で,私はその時,その経験の価値をまだ,理解していなかったと思う。



私は,気になっていたことを聞いてみた。


「あの。旦那さんは,タイか日本に残っていらっしゃんですか?」


「ううん。もう,いっちゃったの。」


静かな笑みを湛えながらそういって,彼女は人差し指を天に指した。


意味を理解するのに,一瞬の時間を要した。


彼女の横顔は,月明かりに照らされ,相変わらず美しかった。



彼女の中にある,美しさとやわらかさの奥に潜む,何か大きな物の存在。

それはずっと感じていたのだが,その理由が初めて分かったような気がした。

深い深い憂いを超えた,慈悲のようなもの。



「あの。お名前を伺ってもいいですか?」


「ふふふ。名前はないの。

ここでは,名前はいらないのよ。」


そうか。


名前など,確かにいらないのかもしれない。


ここでは,なぜかそれが正しい気がした。



「さあ。そろそろ行きましょう。」


タイ人のお手伝いさん一行と一緒に,最後の参拝のため,歩き出した。


いつのまにか三日月が,ステューパの丁度真上まで移動していた。



---つづく---