2008-03-17 22:53:21

明日への遺言

テーマ:映画

人間よ 真の尊厳を 誰が問う



 本作品の題名「明日への遺言」、この題名を想わざるを得ない。もちろん、残された家族や部下だった若者たちの明日ではない。私たちの明日だ。
 作品全編のほとんどは、第二次大戦中、名古屋への無差別爆撃を実行したB29搭乗の米兵を略式裁判で処刑し、戦後その罪を問われB級戦犯として裁かれた東海軍司令官・岡田資中将の法廷での闘い。けっして奇を衒わず、淡々とした演出である。いたって静かに進む「法戦」。なのに、私たちの心に太い杭が少しずつ打たれていく。
 その杭は、戦勝国とか敗戦国とかを超えた、明らかに戦時国際法違反での論点を貫く岡田中将の信念の杭。骨太の杭だ。国際法上禁じられていた無差別爆撃の罪を主張し続けた岡田中将の姿の裏には、原作者である大岡昇平が原作「ながい旅」で言うところの「判断力」、そして「気力」が漲っている。戦勝国の論理でも当然なければ、敗戦国の論理でもない。もっと高みの論理であり、信念である。
 そうした観点からして、この題名「明日への遺言」は、当時の岡田中将という人物が綴った遺言ではあるが、彼を軸とした、処刑後の未来を明日として捉えた遺言であるとの解釈だけではないように思えた。もちろん、それは私たちが今生きているこの現代から見ても明日であるが、さらには、どんな未来を迎えようが、そのまた明日でもあるのだ、そう思えてきたわけだ。
 劇中での法廷では、彼自身の略式裁判の問題のみでなく、日本の都市への無差別攻撃の最たるものとも言えるヒロシマ・ナガサキへの原爆投下も論じられる。そして私たちは、今なお、平和を叫ぶべきとき、このヒロシマ・ナガサキを体験した国であることが有効であることを忘れてはならない。二度と起こしてはならない悲劇。その代名詞たるヒロシマそしてナガサキ。この「明日への遺言」の明日とは、今、私たちが、この映画を観ている現代も含め、平和を願うものたちに共通して来るべき未来のはずなのだ。だから、この遺言劇は、現時点から見た明日でもあり、明日から見た明日でもあり、未来から見た明日でもあり、永遠なる明日なんだな、と。
 私たちは、あいかわらず世界のどこかで戦争が起きていることを知っている。そして、正義の旗印の下に、いまだ先の国際法における犯罪者が裁かれない現実もある。それを分かっているはずだ。
 そんな正義の旗印を振りかざす人々よ、それを分かって見過ごして手を握る人々よ、東海軍司令官・岡田資中将という人を見よ、そう言っているのではなかろうか。この現代にすら、彼のような「判断力」と「気力」でもって公平を貫く信念の主はいないのか、そう言っているのではなかろうか。
 主人公を演じる藤田まこと、そして敵国の人間でありながら彼を必死に弁護するフェザーストンを演じるロバート・レッサー、そしてそして、その法廷をじっと笑みをたたえて見守る妻を富司純子。彼女、モノローグ以外、一切台詞なしなのに、あの存在感は凄い。みんな素晴らしい。「明日への遺言」はきっと伝わる、そう信じたい。

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