自虐の詩 | 空想俳人日記

自虐の詩

シャブ女 拾われ松子の 幸福かな 



 今でも卓袱台(ちゃぶだい)引っ繰り返す男って、いるのかなあ。でも、昔はいた、なんて断言できるほど、私自身、それを目の当たりにした実績は積んでいない。せいぜい、アニメテレビで、巨人の星を息子の飛雄馬に目指させる星一徹父ちゃんくらいだ。
 息子が言うこと分からないと、いきなり卓袱台引っ繰り返すのを、冷静に見てたのは飛雄馬の姉だね。「おとうさん!」と嗜めたりして。ところで、そんな姉の名前、なんだっけ。星・・・幸江? 違うね。美紀。ちがうなあ。明子さん? これも違うかあ。忘れたなあ。
 ところで、引っ繰り返すのはいいけど、今どき、卓袱台なるものあるのかな。この映画でも、いわゆる折りたたみ式テーブルだったよね。今でも卓袱台使っている人は、いるかな。ところで、卓袱台って何。そう言われると困るから、大正から戦中を経て、昭和40年代にかけて、日本の家庭で一般に用いられた四脚で折りたたみのできる木製の食卓(テーブル)、なんだって。じゃあ、あれも卓袱台か。でも、楕円形や四角形の物もあるけど、一般的には円形じゃないのかな。
 絶えず引っ繰り返すのは阿部寛演じる葉山イサオ。でも、なんか、別の俳優に見えていた。ほら、あの北野武監督作品によく出ている寺島進。ね、ね、そう思わない。でも、これ、あとから分かるけど、葉山イサオの大きく3つの変身。最後の今が、そっくり。その前の、ゲゲゲの鬼太郎、やくざから足を洗ってまじめな、いつもの阿部寛。それから、寺島進だよ。あ、間違えちゃいけない、彼、出ていないよ。
 間違えそうになったのは、中谷美紀演じる幸江ちゃんのパート仕事をするラーメン屋、あさひ屋マスターは遠藤憲一。お笑い芸人じゃないんだよね。お笑い芸人の誰かに似ているけど、幸江ちゃんへのアプローチといい、ラーメン燃やしといい、いやはや、いい味出してるね。きっと、おいしいラーメン作ってると思うよ。幸江ちゃんにいっぱいボーナス出したりして。でも、なびかない幸江ちゃん。お札数えている。始めは何でだろう、そう思うけど、葉山イサオは幸江ちゃんにとって特別な人であることが、後の方でだんだん分かる。この映画、観てくださいな。卓袱台引っ繰り返すだけではありません。
 ついでに、アパートの管理人さんだっけ、カルーセル麻紀演じる福本小春さん。ううん、いいよお。幸江とイサオの関係をいつも気にしている。二人の関係への「正」の字が三種。その三種の神器のひとつが、卓袱台引っ繰り返しの回数。でもね、幸江の方も負けていられない。彼女が引っ繰り返すことも(一人のときかもしれないけれど)。それが、もう一つの「正」の字の形成の刻印。そして、最後に三つ目が、いいねえ。小春さんの亡くなった旦那の写真の額の裏に「和合」。そして、その回数。いやはや、いい人だけど、そんな回数チェックされてたら、ちょっと、ぞぞぞ。
 あと、新聞販売店主を演じた蛭子能収。幸江の父、劇的再会以降の面白おかしきかな西田敏行。添い遂げたきかな名取裕子。そんじょそこらの喫茶店主にMr.オクレ。イサオをやくざに戻そうとする組長がなんと刑事役で評判なり竜雷太。ポン引きの島田洋八。さらに、単なる中年男が「クワイエットルーム」の松尾スズキ!
 迷脇役たちもがんばる作品。そんな中で、三種の性格なる阿部寛の、やくざながら長髪凛々しい極道貴公子、足洗いの堅気な素直顔すっぴん、そして堅気ながらズッコケ寺島進風パンチ兄貴。この推移。なんでえ、そうなっちゃうの、思う人もいるかもしれないけど、そんな役柄。
 でもね、なんでもいいけど、やっぱ、最高は中谷美紀だってば。彼女、あれだよ、「BeRLiN」あたりから、気になる存在。で、テレビ作品の「ケイゾク」の映画版「ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer」で、私はちょっと参った。この作品、今回の映画と同じ堤幸彦監督作品だよ。うん。その後「雨鱒の川」や「力道山」を演じて、あの「嫌われ松子の一生」だよ。
 この原作は知らない。でも、知らなくてもいいよ。知らなくても面白い。そして、笑った。そして、泣いた。「嫌われ松子の一生」と比較する作品ではない。貧乏な女の子の人生の顛末でもない。
 簡単に言えば、貧乏だなんて思い込みたくない人々は多いと思うけれど、ちょっとでも、幸せが薄い、裕福ではない、親が悪い、生まれ育った場所が悪い、そんな気持ちを持って生きている人たちは、是非この映画を観ることによって、幸せとは、そういう尺度では計れないこと。じゃあ、本当の幸せが何処にあるのか、それこそ、この映画で感じて欲しいなあ、そう思うよ。
 ちなみに、幸せ気分に包まれて映画館を出たい方は、エンドロール始まっても席を立たれぬように願いま~す。