「安野光雅の世界」展 | 空想俳人日記
2007-04-11 00:21:20

「安野光雅の世界」展

テーマ:芸術

絵の魔法 心の不思議 人の世界 



 ぎりぎりセーフで観に行けた、「安野光雅の世界」展。ほんとなら、彼の故郷、津和野にできた安野光雅美術館を訪れたいところだけれど、仕事やら仕事やら仕事など(仕事ばかりじゃないケ)のせいで、我が身を落ち着けるべくしてその地を訪問する余裕がない、というか、そういう余裕のために安息の日を作ろうとすると仕事場から我がデスクはなくなると思え、などという脅しも頂いており、踏み切れないのだ。
 そんな矢先、その安野光雅美術館開館5周年を記念して、巡回なる「安野光雅の世界」なる展覧会がわが町にもやってきた。ほんとに開催期間のぎりぎりに観に行けたことは、行かなければなんでもなかったで終わったろうが、行けたことで、感慨ひとしおである。ほんと、行けてよかった。
 彼の作品を始めて知ったのは、私が大好きな漫画家である樹村みのりさんが、オススメしたい絵本として、安野氏の「旅の絵本」を私に教えてくれたところから始まる。彼女がお気に入りの絵本、それは言葉のない絵本。しかし、そこには旅で味わう経験そのものが私たちにもたらすものがある。見た目は、一見して、旅の訪問者は淡々と同じ姿であちこち脇目も振ることなく、ただ通り過ぎていく様子。主人公の旅人は、いつも孤独でポツンとしている。そして馬を買う。そして旅行が始まる。でも、その旅人も含めた「旅の絵本」の開く度に見開き2ページに展開される風景は私の時間をいつまでも釘づけにしてくれた。
 この絵本、遊び心が各所に散りばめられ、あとから人気を博した「ウォーリーをさがせ」や「ミッケ!」に通じるものがある。でも、メインの旅人探しはそうだとしても、あちこちに思わず「あはあ」とさせられる場面は、私たちがなじみ深い童話や民話のひとコマがひょっこりと登場したりする。逆に、それらを知らなければ通り過ぎてしまう。旅とはそういうもんだ、と言っている気がする。また、お店の看板の、例えば、お酒が入っている酒瓶、次のページでは中身が減っている、などなど、ちゃんと観察していないと旅の味わいは半減です、と言わんとしているのも、いいね。あと、絵画に詳しければ思わず「くすり」とするシーン、これも素敵。
 そうした旅の味わいのトリックが「旅の絵本」の醍醐味、かな、と思いながら、この作品、シリーズで何冊も出始めたけれども、後の作品になるほど、普通の風景描写になってしまっかなって。でも、彼の作品は、これだけじゃない。他にもたくさんの発想と素敵な水彩画がいっぱい。
 展示されている原画で懐かしかったのは「ふしぎな絵」「森のえほん」「ABCの本」「あいうえおの本」「旅の絵本」「野の花と小人たち」。書物では分からない繊細なタッチ、ホワイトによる修正、原稿としてのナンバリングを消した後、などなど、とても楽しめた。
 実は私が実際に所有している彼の本と言えば「安野光雅の画集」「ABCの本」「かげぼうし」「狩人日記」「起笑転結」「空想画房」「空想工房」「算私語録」「集合」「旅の絵本」「旅の絵本2」「手品師の帽子」「ふしぎな絵」「森のえほん」「わが友 石頭計算機」などなど。
 展覧会で、ああ面白いな、でも持っていない作品だな、というのに、「絵本 平家物語」と「ついきのうのこと―続・昔の子どもたち」。前者は絵の描き方がおもしろい。枯れた色使いの中、炎の赤の色とタッチ、そしてよく見るとあちこちにふんだんと使われている金色の絵の具。赤と金は、多くの色がない方のが効果的だ。そのこだわりが面白い。そして、後者の安野少年の遊びの数々。著者の少年時代、でも、つい昨日のことのような、誰もが懐かしさを覚える不思議な感覚。
 安野氏の絵が味わい深いのは、その自然に対する憧憬とそのタッチばかりではない。日本のエッシャーとも言えるほどの発想や言葉に対する伝えるための意味と遊び、そして、なんといっても憧憬に対する感覚のほんわかした鋭さ、そうした様々な要素が彼の多才な芸を生み出している。そこには、数学に対する美的感覚も持ち合わせた、いわゆる総合芸術とも言える感性が仄かな香りを放っている。
 憧れの人と言えよう。世界的に有名なレオナルド・ダ・ヴィンチが多くの作品よりもたくさんのアイデア・ラッシュなる落書きを残しているように、彼は多くの作品以上に多くのアイデアを携えていると思う。それは、同じ頃に生まれた、私の好きな手塚治虫氏にも繋がるようにも思える。
 多芸多才とは、実は幅広い才能ではなく、人間としての英知をいかにバランスの取れた普通な生き方として持ち合わせていられるか、ではなかろうか。私たちは、そうした点からすれば、どんなに一芸にい秀でていたとしても、人間として中途半端な発展途上人でしかないのではないか、そう思えて仕方がない。

 

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