終末の予定 19 (最終回)

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天国への階段


天国の階段 Stairway to Heaven



美於士からの電話があった後、杏は屋上へと向かった。

家に帰る前に屋上から(滅び去った)街並みを眺めるのが杏の日課になっていた。

フェンス際に移動させたベンチに座り街並みを眺めながら美於士の帰りを待った。

暫くして持ってきた携帯が鳴った。


「もしもし」


「もしもし、杏姉さん、何処にいるの?」


「屋上。」


「解った、今から行く。」


「うん、待ってる。」


思い切り背伸びしながら杏は久しぶりの笑顔を浮かべていた。







「杏姉さ~ん。」


入り口から懐かしい美於士の声が辺りに響き渡る。

そのまま駆け寄る美於士に杏は笑顔を向ける。


「・・・帰ってきたよ、杏姉さん・・・」


美於士は勢い余って杏を抱きしめた。


「ちょ、ちょっと!!!何してんのよ!!!」


美於士の体を押しのけながら睨みつけたが、杏の口元はほころんでいた。


「アハハ・・・ごめん、ごめん。つい・・・ね。」


「ふん、まあ、今日の所は許してあげるわよ。」


「アハハ・・・やっぱり杏姉さんは杏姉さんだ。」


「何よ、どういう意味!人聞き悪いわね。」


「ハハハ・・・人聞き悪いったって・・・誰も居ないし・・・。」


「ま、・・・それは、そうね・・・まあ、よく帰ってきたわね。」


そう言いながら美於士の頭をポンポンと叩いた。

しばらくは帰還を祝いながらそれまでの二人の状況を確認し合った。

そのうちに美於士が1年前のあの事件の話を切り出した。


「杏姉さん・・・・ホントの事を教えて欲しい・・・。」


「何よ、ホントの事って・・・・。」


「・・・・ずっと考えていたんだ。媛ちゃんと史さんの死に方は・・・」


「・・・もう良いじゃない、そんな事・・・・。」


「いや・・・どうしても知りたいんだ・・・。お願いだから・・・全部話して・・・。」


「・・・・全部って・・・何が知りたいのよ。・・・二人は裸で抱き合って死んでいた・・・それだけよ。」


「・・・うん・・・それはわかってるよ。でも・・・何故そうなったかを知りたいんだ・・・」


「何故って・・・私も知らないわよ。」


「・・・いや、杏姉さんは知ってるはずだ。だってあの二人の死に方は・・・今回の皆の死に方に関係してるよね。」


「そ、それは・・・。」


「勿論、始めは気付かなかったよ。でも・・・よくよく考えたら・・・あの日、杏姉さんは何をしたの?」


杏は黙りこくった。


「・・・お願いだから・・・教えてよ。頼むよ・・・・。」


「・・・・・解ったわよ・・・・。」


杏は2年前の誕生会以降の出来事を全て話して聞かせた。

破滅の細菌を濔教授から奪った後、媛と史にそれを使った事も・・・・


「・・・・やっぱり・・・・やっぱり・・・・・媛ちゃんを殺したんだね。」


「・・・そうよ。私から史さんを奪った人間を許せる理由ないじゃない。」


そう言い終わると同時に杏はベンチに頭を打ち付ける形になった。

一瞬何が起きたのか解らなかった。

息ができない・・・・。

そう思った杏の目に美於士の必死の形相が映る。


「う・・・・何・・・して・・・んの・・・・」


「・・・杏姉さんが悪いんだ・・・・いくらなんでも・・・媛ちゃんまで・・・。」


「や、やめ・・・て・・・・・」


「・・・・許さない・・・・媛ちゃんだけは・・・・ダメだ・・・・」


緩まぬ首筋への圧迫を跳ね除けようとする事は出来たが、杏はしなかった。

薄れゆく意識の中で・・・そうだ、あの少女期にも美於士に殺されたかったのだと思い起こしていた。

これが私の願いだったのかも知れない・・・・・・。

首を絞められながら杏の口元はほころんでいた。

しかし、意識とは別に杏の右手は白衣のポケットに忍ばせたメスを握り締め、そのまま美於士の首に突き立てた。


「ぐはぁ~~・・・。」


美於士は杏の首を絞めていたベンチから崩れ落ちた。


「美於士・・・・」


杏は床に倒れた美於士の首の傷口にハンカチを押し付け、圧迫止血をしながら美於士の体を抱きかかえベンチに座らせた。


「杏・・・姉・・さん・・・・」


「・・・黙って・・・ここ押さえときなさい。じゃ、無いとすぐに死んじゃうわよ。」


「杏・・・僕まで・・・殺す・・・の・・・」


「・・ふん、何言ってるのよ・・・私を殺そうとしたのはアンタじゃない。・・・もう黙ってなさい・・・。」


「・・・それは・・・姉さ・・・・助け・・・て・・・。」


「・・・・美於士・・・助かってどうするの・・・誰も居ないこの世界で何すんの?」


「・・・・ふ・・・それ・・も・・・そう・・だ・・ね・・・。」


暫くの沈黙・・・・

2人の目の前の夕日から地上に光が伸びていた。


「・・・杏・・姉・・・」


「・・・黙って・・・もう何も言わなくていいから・・・・」


「うん・・・あの・・・光・・は、し、ら・・・」


「・・・うん、何・・・。」


「あれ・・・天・・国・・・の・・か・・いだ・・・ん・・って・・言うんだ・・・。」


「へ~・・・・そうなんだ・・・・。」


「うん・・・」


「綺麗ね・・・・・。」


再び、暫しの沈黙・・・・


「・・・姉さん・・・・僕・・・約束・・・守ったよ・・ね・・・。」


「・・・そうね・・・指切りしたもんね。」


「うん・・・」


そう言い終わると美於士の頭が杏の肩へと傾いた。

そっと美於士の頭に手を充てた後、杏は右手に持っていたメスを自らの首筋へ当て、そのまま引いた。




「美於士・・・あの階段・・・・私は登れそうに無いわ・・・・。」





杏の瞳を最後に映したものは世界を燃やし尽くす様な真っ赤な夕陽だった。








「杏ちゃん、こっちにいらっしゃい。」


「なあに、お祖母ちゃん・・・・。」


杏が祖母の側に行くとそこに小さな男の子がいた。


「美於士・・・・挨拶しなさい・・・従姉妹の杏姉さんだよ。」


「杏?姉さん?・・・・」


「そうだよ。杏ちゃん、この子は美於士って言いうの。可愛がってね。」


「美於士?」


「そうよ。」


「ふ~ん・・・美於士・・・よろしくね。」


「うん・・・」


「・・・今日から私が美於士のおねえちゃんになってあげるわ。」


「・・・ホント・・・わ~い。おねえちゃん。」


「うん・・・美於士はおねえちゃんの側にずっといるのよ。」


「うん・・・ずっといる~~~。おねえちゃんと一緒~。」


「・・・死ぬまで一緒だからね~。」


「うん、僕、杏おねえちゃんとずっと一緒にいる~~~。」


「じゃ、指きりげんまん。」


「うん・・・指きりげんまん、嘘ついたら・・・・・・」






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