由香さんと初めて会ったのは、忘れもしない札幌駅での事だった。
札幌駅の構内の階段のところで、
由香さんは、泣いているように見えた。
女性が泣いている姿と言うのは、
男の感情を、グ、グ、グ~っと、揺さぶるのです。
増してや、大きなキャリーバックなんかを持っていたりしたら、
もう、堪らなく成ってしまうのです。
「大丈夫ですか?」と、思わず声を掛けた。
それが、初めての出会いでした。
その2週間ほど前に、佐和子さんのお母さんが、
交通事故に巻き込まれて、突然、亡くなってしまった。
佐和子さんは、札幌の幼稚園で保育士をしている、
とても優しくて、可愛い女性です。
札幌市の西区に在る自宅で、お母さんと二人暮らしをしていた。
朝はいつも通りに、元気にしていた母親が、
連絡を受けた時には、もう亡骸に成っていたのです。
佐和子さんは、パニック状態に成ってしまって、
どうしたら良いのか、分からなく成ってしまった。
その連絡を受けて、すぐに由香さんは東京から駆け付けた。
由香さんは、そう言う姉御肌のところが有るのです。
それ以来、ずっと由香さんは、佐和子さんに寄り添って、
佐和子さんの家に泊まり込んで、
佐和子さんの事を慰めたり、励ましたりして来たのです。
お母さんのお葬式も無事に済まして、
必要な書類の提出や、手続きなども全て終わったのに、
佐和子さんは、ずっと、メソメソしたままで、
幼稚園にも、復職出来ないままでいた。
それで、由香さんも、
「もっと、しっかりしなさい!」と、怒ってしまって、
「私は東京に帰るからね」と、佐和子さんの家を出て来てしまった。
で、札幌駅までやって来たのだけれど、
「可哀想な事をしちゃったかな」と思って、
「やっぱり、佐和子のところに戻ってあげようかな」と思って、
由香さんには珍しく、メソメソしていた訳なのです。
結局、翌日の飛行機で東京に帰る事に成るのですけれどね。
おいらは、出張で来ていた札幌での仕事も、ようやく終わって、
でも、今日の東京行きの飛行機は全て満席だったので、
今晩は、新千歳空港のホテルに泊まって、
明日の朝の飛行機で、湯河原に帰ろうと思っていたのでした。
当時のおいらは、まだ新婚状態だったのだけれど、
なぜか、その時の由香さんの姿には、凄く魅かれるモノが有った。
そしてね、由香さんと付き合って行く事に成るのです。