昨日、由香さんから電話が有ったのです。

「あのね、わたし、引っ越ししたいって話していたでしょう?
 それでね、もういっその事、賃貸マンションじゃ無くて、
 分譲マンションを、買っちゃおうかなって思っていたの」

「う~ん、今は、分譲マンションって、
 都心部以外は、そんなに動いていないんじゃないかな?」

「そうっ! そうなのよ!
 わたし、色々と探したんだよ。
 新築マンションなんて、全然、手が出ないし、
 中古マンションは、もうクズみたいなのばっかりだしさ、
 やっぱり、今は賃貸かなって思っているの」

「オレ、そんなに詳しくは無いんだけれど、
 その方が、良いのかも知れないね」

「もうっ! 何、言ってんのよ。
 わたし、のり君の為に、引っ越しするんだよ」

「由香さん、あのさ、
 オレ、由香さんに引っ越しして欲しいなんて、
 一言も、言った事は無いよ」

「そうね、確かに、そうだわ。
 わたし、ちょっと言い過ぎました。
 でもね、わたし、なるべく、のり君の近くに、
 引っ越ししたいと思っているの」

「由香さん、ちゃんと聴いて。
 オレの為にって、思っているんだっから、
 そんな事を、考える必要は、何も無いよ。
 今までだってさ、すぐ下北沢まで行っていたでしょ?」

「そうだよね、わたしが間違っていたと思う。
 でもね、引っ越ししたいの。
 それでね、色々と調べたんだけれど、
 候補が、いくつか有るのです」

「由香さんが今、住んでいるマンションって、
 地理的に、凄く良い場所だと思うよ。
 本当に、引っ越しするつのりなの?」

「もちろん、良く解かっているよ。
 でもね、わたしも、もうイイ加減、歳だし、
 今後も、都会に住んでいる必要は無いと思うのよ。
 その上さ、のり君、愛人に、してくれるんでしょう?」

「あのさ、オレの事は、関係無いんじゃないの?」

「関係、大有りだよ~!
 のり君、前に、
 嫌な仕事なら、しなくても良いって言ったでしょう?
 だから、わたし、嫌な仕事をするよりも、
 のり君の愛人に成った方がイイって、思ったんだからさ」

「それは確かに、そう言った。
 それで、どうすればイイ?」

「わたしね、4つくらいまで、引っ越し候補を絞ったの。
 それでね、もしも出来たら何だけど、
 一緒に、内見に行ってくれないかと思ってさ~」

「いつよ?」

「まだ、言って無いの。
 のり君の都合を、聴いてからにしようと思って」

「不動産屋さんは、明日でも良いって言っているんだけれど…」

「どこの、マンションなの?」

「あのね、4件とも、鴨宮の物件なんだけれどさ…」

「由香さんは、明日、内見したいって事?」

「のり君の都合に、合わせるから、
 明日じゃ無くても良いんです。
 出来たら、一緒に、見に行って欲しいの」

「オレはさ、何とでも成るから。
 明日は、一日中、由香さんに付き合ってあげるよ。
 それでさ、何時に、どこに行けばイイの?」

「出来たらね、9時50分に、鴨宮駅の南口に来て欲しいの。
 のり君さ、鴨宮駅って、知ってる?」

「良く知っているよ。
 オレの行き付けの店も、何軒か有るしね。
 南口ってさ、長~い、渡り廊下を渡って、
 階段を降りた所に、有るんだよね。
 電車が駅に着いてから、
 南口に降りるまで、5分くらいは掛かるからね。
 由香さん、大丈夫?」

「分かった。
 のり君、いつも感謝しています」
 

 

 

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