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「旅というのは、結局のところ食の記憶に尽きるのかもしれない。」と、僕は思うのだ。
唐津市呼子、そこでのイカ刺しは、僕の記憶に刻まれた特別な味だった。活きのいいイカが透けるほどに薄く、口に運ぶと柔らかな甘みが広がる。なんとも言えない、海の恵みそのものだ。呼子の朝市でこの鮮度と出会うたび、僕はこの町がひそかに羨ましくさえなるのだ。
そして、キャナルシティの「ウルフギャング」だ。ここでの一品、まるでそれは肉の芸術だった。塊肉がじっくりと焼き上げられ、深みある味わいと旨みがぎっしりと詰まっている。ナイフを入れると、その柔らかさが手に伝わり、口の中では歓喜のカーニバルが始まる。食べるという行為が、ここでは儀式のように思えてくる。
ハウステンボスで出会った「レッドロブスター」もまた、驚きだった。日本の風景の中に突如現れた、異国の香り。ロブスターをたっぷりのバターで焼き上げたそれは、頬張るたびに贅沢な気分にさせてくれる。なんだろう、あのロブスターは僕をどこか遠い異国へと誘ってくれるのだ。
さらに、長崎中華街にある「ワンさんの店」。その独特の風味と香辛料の絶妙なバランスが、僕の胃袋と心をとりこにした。春巻きや餃子の皮がパリッと焼き上がり、噛むとジュワッと肉汁があふれ出す。まさにここでしか味わえない「特別な味」。店主のワンさんが微笑むとき、その料理はさらに特別に思えるのだから、不思議なものだ。
そして、佐賀市にある「鮨 さもん」。ここは、静かに佇む鮨屋でありながら、ひとつひとつの握りがまるで小さな芸術品だった。ネタの鮮度とシャリの絶妙な温度、職人の技がその全てを包み込む。口に含んだ瞬間、素材の香りと旨みが広がり、僕は無言でそれに身を委ねるしかない。
年内、もう一度こうした旅に出たいものだ。