SGLT2阻害薬のエンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)は糖尿病の薬なのに,心血管疾患や腎障害といった合併症の予防に効果がある.

 

これはテレビ・新聞でも報道されたので,ご存じの方も多いでしょう. もちろん それで間違いありません.

この報道のソースは,2015年に発表された この臨床試験結果報告がきっかけです.

EMPA-REG OUTCOME Trial 1995
N Engl J Med 2015;373:2117-28

 

この試験に引き続いて,ジャディアンスだけでなく 他のSGLT2阻害薬にも同様の効果があるのかという試験が続々と行われ,おおむね どのSGLT2阻害薬でも同様の結果が出ています. したがって,SGLT2阻害薬は,心臓・腎臓 保護又は予防する効果が期待される,これは確立したと思います.

 

しかし,上記で わざわざ 期待されると書いたのは,この効果が すべての人に広く及ぶのかどうか,そこまでは まだ確認されていません. それは以下の理由です.

 

最初に口火を切った,上記の EMPA-REG OUTCOME試験に参加した糖尿病患者7,020名は,こういう人でした.

  • 平均年齢:約63歳
  • 平均BMI:~30 kg/m2
  • 既往:心血管疾患の既往がある,又はそのリスクが非常に高い
  • HbA1c:~8%
  • 糖尿病薬:メトホルミン(~73%),インスリン(~48%),SU薬(~40%),DPP-4阻害薬(~11%)
  • 高血圧薬:ACE/ARB(~80%),
  • 高脂血症薬:スタチン等(~80%)

HbA1cの数値だけを見ると 中等度の糖尿病にみえますが,これは メトホルミン,インスリン,SU薬を服用していてこの数値なのです. しかも ほとんどの人が更に 高血圧薬やスタチンを同時に服用しています.

 

この状態で 心疾患の既往がある又はそのリスクが非常に高い人ということは,明日にでも(というか極端な話,この臨床試験に参加登録したその日に)心臓発作を起こしても不思議ではない人ばかりを多数集めて行ったものなのです.

 

ただし,だからと言って,この試験を『SGLT2阻害薬の効果を過大宣伝するための製薬会社の陰謀だ』というのは間違っています. いかに欧米人の心疾患発症率が高いからといっても,正常人だけを集めて同じ試験をやったら 膨大な人数で長期間追跡しないと結果はでないでしょう.この試験は,『心疾患リスクの高い人がSGLT2阻害薬を服用しても,心疾患の発生率が特に高まるわけではない』という『非劣性の証明』が当初の目的だったので,こうするしかなかったのです.
 

ですから,このSGLT2阻害薬の効果が,もっと症状の軽い人にまで 同等に現れるかどうかは,未知数です.私は その可能性は高く,将来有望だとは思っています. しかし,それはまだ証明されていないのです.証明されていないことは,『期待』ではあっても,『事実』ではありません.

 

ですから,この薬がまるで魔法の新薬であるかのように『お茶の間医学』で紹介されるのは どうにも腑に落ちません.

 

[4]に続く