Yahoo!ニュースを読んでいると、毎日新聞のコメ品薄の記事を見つけました。こちらが元の毎日新聞の記事です。

続くコメ品薄、9月上旬から徐々に解消か 奈良の米穀店が感じた異変

読んでみて、どうも奈良県のローカルの記事のようです。記事最後に「【山口起儀】」とあるので記名記事ですね。記名記事の場合は「責任」を持って調査した結果を報道するものだと考えていたのですが、どうも違うようです。
以前のブログで「昨年の猛暑のために米が不作だった」のが原因ではないと書きました。ところが、この毎日新聞の記事では、

「前年収穫されたコメは高温障害による品質悪化により、売り物にならない商品が増え、例年より在庫が少なかった」
「さらにインバウンド(訪日外国人客)の急増など想定外の複数の要因が重なった」

と指摘しています。ある「米穀店」の話として、

「昨夏は猛暑による高温障害に見舞われたため、売り物にならない商品も一定の割合で含まれている」
「暑過ぎると稲穂は成長するが中身が詰まっていない状態ができてしまう」
「農水省は実績を平年並みと発表しているが、実際の流通量は平年の水準を下回っている」

と述べたことを証拠としています。
以前のブログで指摘したように、作況指数は、玄米にしてから米粒の大きさまでを計量して出す値です。ここまですれば白濁しているかどうかまで大体わかります。それが昨年は「101」(平年並み)だったわけです。従って、

「農水省は実績を平年並みと発表しているが、実際の流通量は平年の水準を下回っている」

ということはあり得ません。確かに実を結ぶころに猛暑だと「中身が詰まっていない状態」があり得ますが、もみ殻を付けた状態ではなく玄米で計量しているのですから中身が詰まっているかどうかはわかります。というか、作況指数とは中身が十分にあるかどうかを計量する指数なのです。昨年は猛暑だったが全国的には米の生育には大きな影響はなかったということです。

つまり、この「米穀店」の言っていることは間違っているということなんです。「専門家も信用できない」といういい例です。

次に、「インバウンド(訪日外国人客)の急増」が原因だという理由ですが、全く影響がなかったとは言いませんが、これも間違っています。同じ毎日新聞の

不作でもインバウンドでもない コメが買えない「本当の理由」

の記事で、元農水官僚の山下一仁・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹が、

「月約300万人の訪日客が日本に1週間滞在し、日本人並みにコメを朝昼晩食べると仮定しても、その消費量は全体のわずか0・5%程度」

と話されています。0.5%程度で今回の現象は説明がつかないわけです。有料記事だったので「本当の理由」はわかりませんでしたが。

同じ毎日新聞でも全く逆の説明をしています。「ファクトチェック」の重要性が注目されていますが、「大手のメディア、報道機関でも信用できない」という例です。
大手メディアでも「煽って」いるということですね。一昨日のブログで、消費者のパニックが原因だと書きましたが、大手メディアが煽っているので火が消えるわけがありません。9月から新米が手に入るようになるでしょうが、買い占めの勢いは衰えることはないでしょう。10月も続くのではないかと思います。作況指数が平年並みであれば、さすがに年末には収まると思います。家の中に米袋が大量にあっても仕方がないと考えるようになるでしょうから。


もう一つ、面白い現象があります。元の毎日新聞の記事の中で、別の「米穀店」の話かもしれませんが、

「米穀店が異変を感じたのは3月ごろ。希望する量を仕入れられなくなりその後も徐々に数量が減っていった」

と話しています。以前「昨年の米の不作が原因でない」と書いたブログの根拠とした記事「米価格の急騰がもたらす後遺症 市場の縮小と水田農業の衰退 熊野孝文」の「米の民間在庫量とスポット価格の推移」



のグラフを見ると、

3月の民間在庫量: 200万玄米トン
4月の民間在庫量: 175万玄米トン

あります。去年同月よりも50万玄米トン前後少ないですが、供給量が減るレベルではないはずです。10月から2月までも同じく50万玄米トン前後少ないですから。それなのに「米穀店」では「希望量」供給されなかったということです。素直に考えると、供給を意図的に減らしたとしか考えられないですよね。
これが、今回の「米不足」の真実だと私は考えますが。


余談ですが、このグラフを見ると今年度は昨年度よりも同月比で民間在庫量が少ないです。一昨年の作況指数は「100」、昨年は「101」なので大きく違うことは考えられません。なのに今年度は少ないです。なぜなのでしょうか。
あくまでも、私の推論ですが、昨年10月から開始した「インボイス制度」が原因ではないでしょうか。農家は零細農家が多いです。そして老齢の方が多いです。JA、農協以外の民間業者に納品していた農家もありました。しかし、インボイス制度対応の敷居は大きいと思います。知り合いもインボイス制度は取得しないと言っていました。つまり、民間業者と取引する農家が減ったのではないでしょうか。この推測が正しいとすると、「税制」が経済活動を、ひいては国民生活を変えてしまうという例になりますね。