短編小説集『月ノ海×星ノ空』

短編小説集『月ノ海×星ノ空』

空を仰げば心を満たす
無数に輝くあの星屑のように
切なくも懐かしく
悲しくも美しく
刹那に消える流星と
言葉に出来ない色彩が
あなたへ届きますように

夜空に輝く星屑の灯りが

あなたの心を照らしますように 

汐月夜空


当ブログ代表作

死に逝く彼女のために 』……ある少年とある少女の恋愛物語。死んでも君を愛し続ける。 完成

あなたのそばの 』……汐月夜空の短編集。五つのテーマを含む、全48話の物語。完成

タイムカプセル 』……彼女と私の物語。切なさと希望、思い出の場所。完成

紫陽花の丘で 』……紫陽花の丘で待ち続けるお話。2012年に書いたもので汐月夜空が一番好きなお話。完成

ロスタイムガール 』……雨の強い盆。家に帰ると君が居た。女子高生と会社員。二人の織り成す暖かな日々。連載中


汐月夜空へのメッセージ 』……ご意見、ご感想、読者登録メッセージなどはお気軽にこちらへどうぞ。


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 お気に入りのデパートの最上階に大きな本屋がある。私は取り立てて本を読むタイプの人間ではないのだが、それでもデパートに用事がある際には、何かしらこの本屋に寄ることを常としている。
 そんな私が今日、目に留めたもの、それが『大人の塗り絵』シリーズだ。幾何学模様から生物まで、精緻で美しい線画が描かれている表紙が気になって、思わず手に取りページを開いたが、モノクロの世界が白い紙の上に所狭しと並んでいるのに何だか心がざわめいた。
『あなたもやってみませんか?』『今、大人気です♪』
 中の印象とは真逆のカラフルなポップがそのざわめきを更に強くする。このざわめきは何だろう、と不思議に思いながらも、ポップの続きを読んでようやく得心が言った。
『簡単にオリジナリティが出せちゃいます☆』

 ……ああ、そっか。オリジナル……。

 苦味にも似た寂しさが心の底から滲み出る。
 5年前の私が見ていたら「塗り絵にオリジナリティ? 何を馬鹿な」と一蹴していただろうな、と思わず苦笑する。今もその気持ちがどこかで燻っている。「0から何かを生み出すことがオリジナルで、塗り絵のように既に在る物に手を加えるのは違うだろう」と在りし日の私は考えていた。信じていたと言ってもいい。
 だが、今の私はそれを否定する。というよりは、否定せざるを得ないのだ。
 だって、今の私はこの『塗り絵』そのものなのだから。
 塗り絵。そう、塗り絵だ。
 大量に刷られた本たちは、色を付けられることで初めてオリジナルとなることが出来る。私もそうだ。皆と同じ社会に生まれ、皆と同じ教育を受けてきた私は、色を塗らなければオリジナルにはなれなかった。とてもじゃないが、0から何かになるような、そんな人生は歩めなかった。
 ページを開けばなんだかよくわからない絵が描かれてる。私もそうだ。心の中はいつだってぐちゃぐちゃで、自分でも何を考えているか分からない時が多々あった。綺麗なところもあったけど、汚いところもあったんだ。
 辺りにはカラフルなポップが貼られてる。私もそうだ。私に対してカラフルなレッテルが貼られていく。「あの人はこうだから」「あの人は素敵だよね」。やめて、私はそんな人じゃない。何度言おうと思ったか。
 そんな自分が大嫌い、と泣き事を言うつもりはないし、そんな自分が大好き、と強がりを言うつもりもない。ただ、私は私、と言いたかった。
 既に在る物に色を塗るだけ。私の中に在ったものに色を塗っただけ。
 それが私。今の私。
 特別なものなんて無かった。どこにでも在る物が私の中に在っただけ。私はそれに色を塗ったんだ。時に優しく。時に乱雑に。誰にでもある翼に、角に、尾に。私は色を塗ったんだ。そしたら、私を見ていた人が言ったんだ。「なんて綺麗な羽根だろう」って。その言葉がどれだけ嬉しくて、その言葉がどれだけ私を救ったか、言った人は知らないだろうね。
 私には何も無いと思ってた。確かに私に特別な何かは無かった。だけど、誰だって時間をかければ、モノクロのそれに色を塗ることが出来るんだ。そうやって誰もが持っているそれは、私だけのそれになるんだ。それは最初から持っている特別な何かより、よほど特別で大切なものになっていく。
 だから今の私はこの塗り絵を否定することが出来ない。モノクロの世界に色を塗ることの素晴らしさを、私は誰よりも知っているから。
 純粋に思いを込めた赤色も、暗い気持ちに嘘をついた青色も、どれも全部本当で、時が過ぎた今こそ、より美しいものだから。
 楽しかったこと、辛かったこと、全部あって、私は私になったんだ。

 滲みだした苦味にも似た寂しさが、じんわりゆっくり心の底に浸みていく。
 この寂しさを吐きださず、飲み下せるようになった私は、確かに在りし日の私よりも大人になったのかもしれない。
 そんな思いを抱きながら、私は手に取った本を傷まないようにそっと平積みの天辺に下ろした。少しやってみたい気にはなったけれど、私にはまだ大切なお古があるから。
重ね塗られて、何色か。塗れてない部分、数知れず。

 ――『私』の塗り絵は、まだ、これから。

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