塾の講師をしていたころ、夏休みが終わってすぐに
私大文系受験クラスに入ってきた生徒がいた。
その頃、私のメインは高校受験で大学受験は担当講師が
臨時休みの時の代打ぐらい、彼女は英語だけしか受けてなかったから、
授業を受け持つことはなかった。
 
それでも一度だけ、自習室の担当の時に話したことがある。
「英語だけしか勉強してないんだね」
「志望校の青学英文科の受験科目は英語だけだし、他は受けないんで」
「併願とすべり止めとかは考えてないの」
「考えてないです。て言うか器用なことできないんですよ。
一つの事を集中してやるのは得意なんですけど、
いくつも並行してやることができないんです。
運動も100m走とかクロール25mとか得意なんですけど、
バスケみたいにドリブルしながら走るとかできなくて」
器用ではないってことだけど、よく言えば非常に
集中力が高いって事なのかな。
 
「青学ダメだったらどうするの」
「浪人って言うか、一度フリーターですかね。うち、それほど
裕福でもないんで、お金貯めて翌年受け直しです」
さらっと言ってのけたけど、それも結構大変だよ。
「それに私長期間頑張れないんですよ。本格的に受験勉強を
始めたのも9月からで。半年ぐらいなら頑張れるかなと」
その時の実力がどのくらいかはわからなかったけど、
それだけプランがしっかりしてるんだったら、
何も言う必要はないよね。
 
半年後、彼女はハーゲンダッツのアイスクリームをもって
塾へ遊びに来た(3月の極寒の日にだよ)。
(ちょっと変わった子だったんだよね)
青学の合格報告に。
入塾した時に模試の英語の偏差値が56ぐらいだったから、
半年で10以上上がったことになる。
 
・人間は複数のことに精密に集中できない
・人の情熱は長期間続けることが難しい
 
ナポレオンやチェンドラーの戦略を彼女が知っていたのかは
わからない。
でも、自分の得意不得意をよく考えて練った計画が
見事に実を結んだんだろうね。