【第3513回】




死者は去るのではない。還って来ないのだ。


と言うのは、死者は、

生者に烈しい悲しみを遺さなければ、

この世を去る事が出来ない、という意味だ。



(p.234「人生の鍛錬

 ――小林秀雄の言葉」

 新潮社編 新潮新書)



死というものを

言い表したひとつが

引用文になります。


小林さんの

本居宣長の研究の中で


宣長の思想から読み取った

意味になりますが、


あまりにも普通のこと

であるにも関わらず、


言う必要に迫られた

その理由はなんでしょうか。





この世の真実、


それは表現すると

あまりに当たり前で

普通のことでしかない


その真実の姿は


烈しい悲しみの上に立っている

ということができます。


宣長さんはそれを

「もののあはれ」

といったわけですが、


この世の真実、

それにいつでも伴う悲しみ


その認識を得ることが

現実的な知恵なのです。





僕は妻と結婚して

四人の子どもに恵まれましたが


彼等と共に過ごすことの

喜びや楽しみが

本当の幸福であると感じる一方


それは、諸行無常、

必ず失われるものだからこそ


非常に尊いものでもあり、


またそれが

悲しみの種ともなります。


そうした一切を認識すると


今、この時が

素晴らしい栄光の輝き


と言っても

全く過言でないことを


分かってもらえるのでは

ないでしょうか。


そこに、何の権威がいるのか

何の贅沢がいるのか、

何の希少性がいるのか


と思わされるのは当然です。


例えば、近所の公園で

家族で花見をして

花吹雪を楽しんだ時に、


それ以上の幸福のために


なにも付け加える必要など

感じませんでした。





こうした真実に伴う

常識を忘れて、


わざわざ不幸を選択し、

後悔する人がいます。


いつでもこのことが

意識されるために

学問があるべきでしょう。


個人的な意見として

ご参考まで。