【第3025回】




時間はおまえのなかに入ってゆく。

それでおまえのなかには時間がどんどんたまってゆき、

そのためにおまえは年をとってゆく。

(中略)

人間というのは、ただの時間だけで

できているわけではなく、それいじょうのものだ。


ところが、灰色の男となると話はちがう。

彼らは、ぬすんだ時間だけでできているんだ。



(p.352「モモ」

 ミヒャエル・エンデ 岩波少年文庫 1973年)



引用は当然のことです。


重要なのは、


時間も大事だが、

人間はそれ以上のものだ


という部分になるでしょう。


それを言い換えるなら、

人間には、


過去を再体験し、

未来を想像する、


そのための魂が宿っている

という意味になります。


「今」だけに生きる


というアドラーに対する

浅薄な理解は


サイコな実業家たちに

大いに奨励された概念ですが


それは灰色の男同様


ぬすんだ時間で

「今」を肥大化させて

生きる人にとって


有利に過ぎません。


ただし、人間にとって

本当に重要なのは


今を立体的に生かす

過去と未来の意識です。





過去があるから

人はその流れの中に

未来を想像します。


過去から現在への

流れを見ずして


未来など想像しようが

ないからです。


また、過去を見ればこそ

親ガチャなんて

言ってられません。


全ての人間が

親ガチャにさらされて


今日までどうにか

生きてきたものを


今ここにいるものが

全てを否定するのは


今だけしか

見ていないからです。


今しか見ないのは

魂を失ったからであって


「今」につまづけば

何一つ、よすがもなく、


この世から退場するのみです。


過去にこだわる人も同様、


今、現状に対して

本当はこだわっているから


過去を理由にして

いるに過ぎません。


過去を知るには


過去に生きた人、また自分と

同じように歩みなおす

必要があるのです。





魂があれば、

人生をもっと立体的に


もっと長い時間軸で

捉えることができます。


それは今を豊かにする

唯一の方法です。


感覚で受け取れる快楽には

限度がありますが、


魂の想像はどこまでも飛び

永遠を知る事さえ可能です。


だから、今の現状を

もっと違った解釈で

眺めることもできます。


だから、人間は

時間、それ以上の存在

足りうるのです。





魂が豊かになるとは

記憶が豊富になる事であって


自分の経験それ以上の

記憶を知る、再体験することで


成されます。


それは科学のような

抽象的な学問ではなく


個別具体的な経験、体験に

依存することなのです。


ご参考まで。