【第2879回】




人生でいちばん危険なことは、かなえられるはずのない夢が、

かなえられてしまうことなんだよ。

いずれにせよ、ぼくのような場合はそうなんだ。

ぼくにはもう夢がのこっていない。

(中略)

だが、夢もなしにびんぼうでいる――いやだ、モモ、それじゃ地獄だよ。

だからぼくはいまのままのほうがまだましなんだ。

これだって地獄にはちがいないけど、でもすくなくともいごこちはいい。



(p.307「モモ」

 ミヒャエル・エンデ 岩波少年文庫 1973年)



引用にある、

「ぼくのような場合」

というのは


夢によって前進して

ワクワクして楽しい


そんな人のことを指します。


だから、夢が叶えば


前進もないし、ワクワクも

楽しみもなくなる


というわけです。


だからといって、

夢を追いかけていた

時代に戻りたいかというと


すでに夢を

知ってしまった彼には


夢に魅力を感じないので


ただの貧乏に戻るだけ

にしか思えません。


そうなれば、夢をかなえ、

裕福である現在のほうが


貧乏でない分まだましだ

となります。





ただし、現在の裕福さは


夢を追いかけた力を

失ったために


欺瞞によってごまかさないと

得られないものに

なってしまっています。


つまり、夢をかなえた結果、


嘘をつき続ける

人生に突入したわけです。


それは、精神にとって地獄だ

と引用では述べています。





人間は不安よりも

不満を選択すると言います。


つまり、

不安でいるくらいなら


不満でいることを

甘んじて引き受ける


ということです。


引用の人間にとって

不安なのは

貧乏になることであって、


裕福であるためなら


自分のワクワクを捨て

嘘つきでいる不満を


引き受けた方がまし

と思います。


もちろん、精神は

その矛盾を受け入れません。


受け入れない結果、


鬱病であったり

自死を引き起こすのです。





人間の幸福を決めるのは

裕福さや夢ではありません。


不安に打ち勝つ勇気であり、


自分の大切なものに対し、

自覚的であることに尽きます。


ご参考まで。