【第2660回】




禁煙しようとしても

イライラして結局

断念してしまう


という人がいました。


その人の友人などは

禁煙外来に行って、

簡単にやめられたのに


なぜ自分は同じことをしても

やめられないのかと


不思議に思っているのです。


行為、物理的な薬物は

同じはずなのに、


一方が簡単に

やめられるという事が


納得できないとのこと。


僕は酒もたばこも

若いころに結婚した妻から

禁止されていたので


私生活で

まったくやったことは

ありませんが、


「そういう人に禁煙の辛さは

わからないだろうなあ」


という一回転した

優越感情すら

彼の態度には垣間見えます。


悲劇のヒーローのような

有様です。





僕は彼に問いました。


「禁煙してイライラしている

自分と、


喫煙して安定した

自分では、


どちらが本当の

自分だと思いますか?」と。


彼はちょっと

戸惑っていましたが、


薬物に頼って安定した自分が

本当の自分であるはずがなく、


薬物を断って、

イライラしている自分が

本物に違いないのです。


彼の友人などは

タバコを簡単に

やめられたそうですが


本質的に

イライラしていないから

可能だっただけに過ぎません。


そういう意味で、


「あなたは常に

イライラすることが

自分の中にあるんですよ、


そのイライラを解消しないと

タバコもなくなりません。


タバコのおかげで

安定していられるなら

それでも構いませんが、


おそらく、仕事や生活で

問題を起こすとしたら


その潜在的なイライラが

元凶になっているので


タバコを止めること以上に、

自分を知ることのほうが

重要だと思いますよ」


と僕は意見を述べました。


彼としては、

タバコを止めたいというのは

本心だったようで、


僕の意見を聞いてくれましたが


それでも、潜在的なイライラ

と言われても


どう考えていいか

全く分からないようでした。


これ以上は話が込み合うので

話しませんでしたが、


精神科医が仕事をするとしたら

この領域と言っていいでしょう。


間違っても、


タバコの代わりになるような

薬を処方して


社会復帰させることでは

ありません。


その間違いが

一番問題解決として

簡単で確実なので


必要なのでしょうが、


禁煙外来でも

やめられない人にとって


救いを求める場所は

もはやないのです。


そのことを残念に感じます。


ご参考まで。