向かいの家の奥さんにつかまりました。驚くことに、彼女は「痴漢が出るのよ、知らない」と、言ったのです。本当に心臓が止まるかと思うほど驚きました。
 だって、痴漢といえば私なんです。全裸のまま何度マンションの周囲を歩いたことか。まだ、実際にしたことはありませんが、マンションを出ると、数メートルごとに曲がり角があり、ぐるっと一周してもどって来ることができるのです。一周数分の距離です。いえ、数十秒の距離です。
 なんども、それをしようと、長く湯舟につかっては、寒い冬の日の深夜に、外に出たものです。
 もちろん、かなり注意深く周囲を見ました。見つかっているはずがないと思っていました。
 奥さんは「うちのお風呂は駐車場の奥だから、覗けるみたいなのよね。うちには、小学生の娘がいるの、知ってる」私はかろうじて首を横に振りました。その話をきっかれに露出痴女のいたことを言ってくるのだと思っていたからです。
「娘が覗かれたのよ。冬は窓、開けるじゃない。お宅も一階だけど、どう、覗かれない」
 これを読んでくれている方には意外に思えるでしょうが、私は露出痴女なのに、不用意に覗かれるのは嫌いなので、窓を開けてお風呂に入ることはしません。でも、窓を開けたい気持ちは分かります。
「下着も盗まれるのよ」
「あっ」
 私も経験がありました。でも、風に飛ばされたような気もしていたのです。二度ほど下着がなくなり、それからは外に干すのを止めていました。
「おたくでもあったの、いやよねえ、気持ち悪いわよねえ、変な男の人とか見なかった」
 ようやく、私は、奥さんの話が覗きや下着を盗む痴漢で、露出とは無関係なのだと分かってきました。安心しました。でも、同時に、家の外を全裸で歩いてみたいという欲求に襲われました。まだ、私のことは知られてない、と、感じたからです。それが、本当に危険なことだとは十分に分かっているんです。でも、それも止められない衝動のひとつなんです。