昨年の10月7日、ハマスが、イスラエルを奇襲攻撃し、1200人が死亡、250人が拉致された。イスラエルでは、第2のホロコースト(ナチスによるユダヤ人虐殺)として、戦慄が走った。
イスラエルはハマスに対して報復に出た。それから1年が経つが、停戦の見通しも人質の解放も先が見えない。ガザでの犠牲者の数は4万を越えている。
レバノン南部に拠点を置くシーア派武装集団ヒズボラは、ハマスを支援してイスラエルを攻撃している。
イスラエルは、10月1日、レバノン南部への地上侵攻を開始した。空爆も引き続き継続しており、大きな被害となっている。
ナスララ師の殺害に対する報復として、10月1日夜、イランはイスラエルに対して、過去最大規模のミサイル攻撃を行った。
一方、イスラエル軍は、ガザ北部のジャバリヤを包囲して、地上攻撃を始めた。ハマスに復活の兆しが見られるという。イスラエル軍は、ガザ中部でも空爆を行っている。
イランとイスラエルの本格的な武力衝突となると、中東全域での戦争へと拡大しかねない。両国とも、それは望んではいないだろう。戦争になれば、イランは、アメリカに支援されるイスラエルに負ける確率が高い。
また、イスラエルもアメリカの同意を取り付ける必要がある。
ヒズボラは、イラン革命防衛隊の庇護の下、1982年にイスラエルがベイルートを侵攻した際に発足した。兵士の訓練、武器供与など、イランが支援を続けている。この組織の目的は、イスラエルの抹殺である。
ヒズボラの軍事力は、非国家組織としては最大級で、戦闘員は3万〜5万人、射程500㎞のミサイルを含め、12万〜20万発のロケットとミサイルを保有し、イスラエル全土を攻撃できる能力を持つ。
人質の解放を実現できないネタニヤフ首相に対して、国内の不満が高まっているが、国民は、ヒズボラを殲滅することを支持している。ヒズボラは、反イスラエルの武装闘争を止めず、ハマスを支援してきたからである。そこで、ネタニヤフは、ヒズボラを徹底的に叩くことによって、自らの支持率を上げ、求心力を高めようとしているのである。
ガザへの侵攻が人質解放とハマスの殲滅であるように、今回のレバノン地上侵攻は、18年前に実現できなかったヒズボラの壊滅が目的である。
イランを後ろ盾にして、反米、反イスラエルの武装活動を行っているのが、ヒズボラやハマスやフーシである。これを「抵抗の枢軸」と呼ぶが、イランが、1979年のイスラム革命を周辺地域に「輸出」するために育てた武装組織である。
これらの組織は、いずれもイスラエルの地球上からの抹消を求めており、イスラエルとパレスチナの二国家共存という考え方を根本から排除する。ネタニヤフもまた、二国家共存には反対である。
パレスチナ問題は、二つの正義の相克である。その原因を作ったのは、第一次世界大戦中のイギリスの2枚舌外交である。具体的には、アラブ人に独立を認めたフセイン・マクマホン協定(1915年7月)とユダヤ人にパレスチナでの国家建設を認めたバルフォア宣言(1917年11月)の矛盾である。
その矛盾を解決するにはイスラエルとパレスチナの双方が妥協して二国家を建設するしかない。しかし、そのための機運は、この1年間ですっかり萎んでしまった。パレスチナ問題の解決はいつになるのであろうか。