感染症の危機管理:新型インフルエンザ対応の教訓(9):感染経路が不明に・・新しいフェーズ     | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 2009年の新型インフルエンザ発生のときも、厚労大臣の私は、感染拡大と経済社会活動の継続のバランスをとることに腐心した。

 橋下大阪府知事の懇請に対して、早速手を打つことにした。しかも、5月19日午前零時現在で、国内感染者の数は163人になり、もはや感染源や感染経路の特定は困難になっていった。

 それに加えて、専門家が新型インフルエンザの毒性は弱く、通常のインフルエンザ並という評価を下しているので、私は、対策をより柔軟化・弾力化する方針を固めた。

 具体的には、強毒性ウイルスを前提にした政府の行動計画では、軽症者も含めて入院治療することになっているが、これだと病院がパンクしてしまう。実際に神戸や大阪の現場では野戦病院のような状況で、医師等の人員不足、医療機関の施設不足など様々な問題が生じていた。

 そこで、私は、軽症者は自宅療養に切り替える方針に転換することを考えた。

 このような方針転換が正しいのか否か、それを諮問する専門家による検討会(アドバイザリーボード)を私の直属で設置することにした。政府の新型インフルエンザ対策本部には専門家諮問委員会が設置されており、尾身委員長などそうそうたる専門家に集ってもらっているが、首相官邸がメンバーを教授以上の肩書きの者に限定するなど、官僚的、権威主義的手法で人集めをした。

 そのため、若手の専門家や既存の医療エスタブリッシュメントに反対する者の意見が入ってこない。そこで、セカンドオピニオンを取り入れる必要があると、私は判断したのである。現場で戦っている医師や看護師の意見ほど貴重なものはない。

 こうして、19日、神戸の「野戦病院」を指揮する岩田健太郎(神戸大学医学部感染症治療学分野教授)、国立感染症研究所の感染症情報センター主任研究官の森兼啓太、東大医学部感染症内科助教授の畠山修司、自治医科大学感染症学部門準教授の森澤雄司の4人に集まってもらった。

 彼らもまた、私の東大医学部の教え子ネットワークの力で引き抜いた優秀な人材であり、常日頃から既成の権威に対して堂々と反論してきた勇気ある専門家である。

 岩田は、新型インフルエンザ治療の現場体験から、「軽症であれば、インフルエンザは自然に治る。こちらに入れ込み、心筋梗塞などの命に関わる病気の治療をおざなりにするのは本末転倒である」と強調した。

 森澤は、「一日も早く感染症法上の新型インフルエンザの類型指定から外して季節性と同じ扱いにすべき」と主張し、行動計画を改める事を提案した。森兼は、「国内で感染が広まっている現状では、機内検疫は意味がない。医療現場に医師を戻すべきだ」と述べ、機内検疫の即時中止を求めた。