炭焼長者
 
むかしむかしあるところに
炭を作って生活している男がいました。
ある日、その男を都に住むお金持ちのお姫さまがたずねてきました。
「占いによると、あなたと結婚すれば運が開けるとのこと。どうか私をお嫁にもらってください」
と、お姫様は言いました。
男は驚いて、
「でも、おらのうちには食い物も布団もねえから」
と断ろうとしました。すると、お姫様はもってきた小判を何枚か出して
「それでは、これで必要なものを買ってきてください」
と言いました。
男が小判をもって町へ行く途中、池に鴨がいるのをみつけました。
「よし、あれをとってやろう」
小判の価値を知らない男は、小判を鴨に向かって投げつけました。しかし、すべてはずしてしまい、しかたなく男は手ぶらでいえにもどりました。
その話を聞いたお姫様は呆れてしまいました。
「なんて馬鹿なひとでしょう。小判の価値を知らないなんて」
「あの石ころはそんなにすごいものなのか? 裏の山にいくらでもころがっているが」
それを聞いたお姫様はびっくり。
男に案内してもらうと、そこには金があちらこちらに散らばっていました。
 
やがて、男はその金を売ってたいへんな大金持ちになりました。
ひとびとは、男を「炭焼長者」とよんだということです。
 
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各地方に散らばっているお話です。
筋はだいたい同じですが、炭焼きの名が「小五郎」だったり「藤太」だったりするほか、お姫さまが美しいひとであったり、あまりにもブサイクで嫁の貰い手がなかったり(笑)と、多少の違いがあります。
東北のバージョンでは、この炭焼長者の息子が、源義経を奥州藤原氏に紹介した金売り吉次、と紹介している場合もあります。