五行詩(247) | 五行詩人の散策

五行詩人の散策

ありふれた日常の中でふと思うこと、嬉しかったこと、切ない気持ちを五行で書いております。

小さな箱から

一瞬だけ聞こえた


たった数音に

呼び覚まされる


やさしさの記憶

=====


久しぶりに部屋の模様替えをしている

秋の週末


床に散らばるガラクタどもを

何とかやっつけるには

押入れに放り込まなければ

いけないのだが

そこはそこで先客が幅をきかせている


で、古いダンボールを

一つずつ確認することに


高校の教科書やら

見たくもない点数のテストの束

どうして、あんなに夢中だったか

自分でも疑いたくなるSF文庫


よくもまあ、保管して置いたものだ


さて、どこから手を付けようかと

とりあえず、一つの箱を引っ張り出す

その拍子に

幾つかの箱がガタンと揺れる


ポロン


わずか3つか4つの音

だけど、それが何の音なのか

ハッキリと判った


僕が生まれる前から

母が持っていたというオルゴール

その曲が「エリーゼのために」

という名前だと知ったのはずっと後だった


僕が生まれてからも

母はその小さな小箱を

ベッドの傍らに置いて

この曲を流していたそうだ


そう考えると

この音は

僕が言葉を認識する

ずっと前から、僕の記憶にいたのかも


そう、このオルゴールの音色は

僕の心に染み付いている

・・と言うよりも

僕の心そのものかも知れない


もし、人の心に土台というものが

あるとすれば

僕の土台は間違いなく

このオルゴールだ


揺れた弾みで

わずかに回った

ねじ巻きと歯車が奏でる音


その音がさまざまな記憶を甦らせる


優しい母のぬくもり

何ものにも責め立てられぬ日々

あらゆるものが新鮮で

あらゆるものが温かかった


どの箱から

流れてきたのだろう?


それだけは捨てないように

しなくちゃ・・・・


秋の陽は急ぎ足

早々と部屋に忍び入る

深い夜


だけど、自分の奥深くに

じんわりとした

温かさが灯っていた






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