【タイトル】
Sugar High
【アーティスト】
鬼束 ちひろ
【リリース】
2002/12/11
【トラック】
[1]NOT YOUR GOD
[2]声
[3]Rebel Luck
[4]Tiger in my Love
[5]Castle・Imitation (album version)
[6]漂流の羽根
[7]砂の盾
[8]King of Solitude
[9]BORDERLINE

《ボーナストラック/付属8cmCD》
[1]Castle・Imitation
[2]Castle・Imitation (inst.)

【総合評価】3.0


 3rdアルバム。2ndアルバムとの間隔が短かった関係で収録楽曲に先行シングルは入っていない。入手はレンタル落ちであったが、ボーナストラックが付属していたので初回限定盤だろう。


 ジャケットを見ると1st『インソムニア』とは別人のよう、今回の方がビジュアル的には格好良く決まっている印象は受ける。しかし、聴く前から潜在的に何処か引っ掛かるのが気になった。「Sugar High」というのも結局は精神状態を示す単語であり、外見の本人の変化が気分によるものとは思えない。


 率直な感想としてはやられた、の一言。ジャケットの印象とは真逆で内容は大分大人しい、歌詞の世界観は相変わらずと言って良いがそれにしても見かけ倒しではないかと思ってしまった。別にロック調の楽曲を求めていたわけではないが、先行シングルが無いのでジャケットにつられて全体の雰囲気を読み違えてしまう。

 実績とすれば週間2位に入り、一定のセールスを記録している。素人でも楽曲に非凡なセンスが滲み出ているのは感じ取れるのだが、本人との感覚に明らかな違いがある。聴く側が予め内容を把握した上で、求めていた音楽ならばこちらから言うことは何もない。当方がはっきり言えるのは、このジャケットと音楽の組み合わせは求めていないということだけである。


 このあと本人は休養だったり移籍だったりで、当初リリースするはずだったという話の4thアルバムが立ち消えとなったとされている。振り返ってみると休養が割と多い、事務所やレーベルの移籍も少なくなくシングルやアルバムのリリースは有りつつも第一線から一旦後退する。

 そして私生活でのトラブルが表沙汰になって変貌を遂げたのが2010年代。それを契機にビジュアル自体が急に変わっていったわけではないが、言動は明らかに様変わりした。これをトラブルが原因でおかしくなったという意見が少なくない、絶対の否定はしにくいのだが当方は完全にそうは思っていない。

 本人が幾つかの面を持っていて、裏にしていた少々サディスティックな面が表に向いてしまったのだろうと思っている。初期からの歌詞を見ればそもそも絶対に大人しい人間ではないと何となく推察できる、感情を抑制しつつ他ならぬ音楽が本人の理性を解放する場だったと言える。

 後に本人が楽曲提供をしており、そこには本来の鬼束ちひろワールドがあった。そこは何も変わっていない。強いショックで別の面を表に向けてしまった事は否めないが、本人の音楽は開放的になったと思う。


 ある程度の擁護はしたものの、正直他人に刃を向ける言動は無論どの業界でも歓迎されるものではない。音楽業界は忌避し、放送業界は興味本位で番組に呼ぶなどしたがその熱も何処かへ去った。また何処かで呼びたいと音楽関係者が思っていても、やはり不安やイメージが拭えないのだろう。その音楽の才を求めず放棄するにはまだ早い、本人も含めて何とかならないものか。(完)