この時期になると改編期前と言うことで番組終了の発表がネット記事から目に入ってくる。長年放送していた番組を終了する放送局もあれば、低視聴率で短命に終わった番組をさっさと撤収する放送局もある。タレントパワーや芸能事務所との関係性など有ること無いこと囁かれているが、一般人が知っておくべきところを知らず知らなくて良い事を知ってしまっているという混沌が生じているのが問題。当ブログは音楽関連の話しかしないのでいちいち突っ込むのは野暮。


 ここで取り上げるのは3月に終了するという音楽番組の話。 いわゆるゴールデンの時間帯に、一般(一部プロ)の人間が歌唱を披露してカラオケなどに使われる機械での採点と審査員による審査で競うという番組。特番だったり、コンセプトが異なったりするが他局にも類似番組はある。

 正直レギュラー番組として開始した時点で1年もつかどうかかな、という感想。予想通りというか予想より早かったので外れたと言った方が適当かもしれない。絶対に有り得ない仮定として自分が出演するタレントもしくは審査員側の人間であり番組を第一に考えたなら、間違いなく出演することに渋る。

 端的にああいう番組は上手さだけを追求しているようにしか感じない。そう感じさせないために審査員を置いているのだろう、それでも感動して泣いている姿を見ると余計に引く。実際あの場に居れば生の声に琴線が揺さぶられることもあるかもしれないが、少なくともプロとして職業にしているのにそれくらいで泣くのかと疑問に思う。もし本当に泣いてしまうくらいの声ならば、多少ゴリ押ししてでもすぐにデビューさせるはず。


 もう1つ気になった事。ほぼ番組本編を観ていないためCMを観たベースで話を進めるが、歌っている人間に「クセ」が無い。「クセ」と表現するのが正しいかどうかは別としてとにかく本人だと分かる独特の声質の持ち主がいない。

 持論になるが、95点や90点の普通の声質よりも80点や75点の気になる声質の方が案外売れるような気がする。はっきり言って人間の耳は機械とは違う。ただ「上手い」では売れない、たとえ「感動する」でもそれくらいの感想でとどまるならその歌手はデビューで注目が終わる。何とも言い表せない『その先』『その奥』の感情がCDを購入、ライブに行く、ファンクラブに入るという意欲にさせるのではなかろうか。


 例えば歌手を目指すにしても、昔はアピールする機会が限られていた。それこそコンクールに応募したり、TV番組にしても何週も勝ち抜いたりしてレコード会社に売り込む必要があった。スカウトという道も無くはないが何処にでもスカウトがウロウロしているわけではなく、ツテが必要だったりする。

 今はそれこそカラオケの機械から直接応募が出来たり、インターネットで発信したりすることが可能。それでシンガーになれる確率が上昇するとは限らないが、入口としては大分ハードルが低くなった。音源をレコード会社に送るにしても、ちょっと技術を身に付けておけばPCで編集してレベル高めの作品で売り込むことが出来る。


 当番組において審査員が歌っている側に激怒したなどという話があったのでその辺は動画サイトなどで観たが、これこそ上手さばかりを追求した風潮の末路に他ならない。皆がそうではないだろうが、今の過剰な競争社会は「これを歌えば感動してもらえる」と思っている人間を生みかねない。「感動してもらえる」では他人の感情を動かしたわけではなく一時的に操っただけ、言い方が良くないが本質的には欺いている。今回のケースでは歌詞の内容をきちんと理解していない点が何よりの証拠だった。

 よってこの騒動は荒療治であり、観ていた視聴者はそれに耐えられず離れていった。そもそも近年音楽番組が激減したせいだけでなく、放送規制の強化により放送内で感情が爆発するような場面がないことも影響して免疫をつくる機会が無い。

 加えて正直J-popの一部分が後退しているように思える。若い世代でただ上手い人間なら確実に増えていて、底上げという意味では音楽の浸透はあったと思う。しかしながらそこから抜けた人材がいない、いないと言うのが正しいのか見つけられていないと言うのが正しいのか。だからソロで勝負できる人材は海外出身だとか他の要素が付帯していないと中々注目されない。だったら特色が弱くとも何人か集めてしまった方が早い、下手をすれば外見重視でも何とかなる。会社は自ら取りに行くような投資をしようとせず、楽して人材を確保しようとしているように今は見える。無論地道に人材を発掘しようとする会社もあると思うのだが。


 そして音楽番組に限った話ではない、最近のTV番組はどれも昇華しないまま終わっていく。視聴者が「面白かった」「ためになった」「感動した」というような感想の先の感情を持てていない、それは番組制作側も同じようにそれ以上の事を考えていないからである。視聴率の事ばかり第一に考えて一杯一杯、結局視聴率も伸びなければいつまでも負のスパイラルを抜け出せない。よく思い出して欲しい、近年の終了した番組よりひと昔の番組の方が印象が強く記憶に残っている、翌日他人に話したくなる番組もあったはず。極端な話、大半の番組を終了させ入れ替える浄化を図った方が今は良いのかもしれない。1度で済むような気はとてもしないが。(完)