●詩語表を入手する
これまでは長い前置き、基礎知識でした。
えっ? 簡単に思えない?
うんうんうなりながら、自分でことばを並べなきゃならないし、辞書を調べなきゃならないんでしょ!
確かにそうです。
でも、「ここにこういう音の語が入る」と韻律に決まりがあること、それと漢詩で詠まれる風物にある程度、決まった範囲があること。
こんな特徴から、昔の人は「詩語表」を作りました。
この「詩語表」があれば、すいすい作れてしまうんです。髪をかきむしって、うならなくてもいいのです。
前回述べた漢詩の構成で、二字もしくは三字がワンセットでパズルのピースのようになっていることを説明しました。そのピースが音ごと(○○、●●など)に、またたいていはテーマごと(春夏秋冬や風物など)に表になっているんです。
その中から、好きな言葉を選んで意味の通るようにすればいいわけです。
じゃあその「詩語表」は、どこにあるの?
ここで、自作のものを注文するフォームへのリンクをはれば、立派な宣伝ブログですが、そんなものはありません。
市販の漢詩作法の本に載っていることもありますし(私も一冊持っていますが実家にある。役に立たん)、ネットで検索すると初心者向けのよい本があって、通販で買えるようです。
でも、本当の初心者にしてみれば、なかなか最初からお金を出して買うところまで行きませんよね。もちろん、買いたい人はどうぞ買ってください。これら一連の記事よりタメになることが書いてあるのは、うけあいです。
さて、江戸時代から明治、戦前まででしょうかね、けっこう日本人の間で漢詩を作るのが流行していたんですよ。それで、詩語表を載せた本も、昔はたくさん出版されていました。著作権が切れたものも、いっぱいあります。
そこで、国会図書館のサイト、近代デジタルライブラリーで入手しましょう。
①どこかの検索サイトで「近代デジタルライブラリー」を検索、行ってみます。
②上の方にある検索窓で「詩語表」と記入、その右の検索ボタンを押す。
③出て来た候補から、よさそうなものを選ぶ。
ここでは『和漢名詩選 訳註附・作詩初歩』(奥村梅皐編、文江堂書店、大正元)をダウンロードしてみます(方法は同サイトの指示に従ってください)。なお、この本はタイトルを見ても分るように名詩選がメインですが、さしあたっては後ろの方の詩語表しかいりません。
大正元年ってすごいですが、著作権者もみてみてください。何だか教科書に出てくる人ばかりでこちらもスゴイです。
この本の構成は、「名詩選」「作詩法」「詩語一覧」に大きく分かれています。このうち「名詩選」「作詩法」はより興味が出て来たら読めばよいので、ダウンロードしなくてもよいです。必要なのは「詩語一覧」だけ。
詩語一覧は274ページから。
上下段に分れ、最初のページにはこんな風に書かれています。まず上段から。
◎春
【歳旦】
●●
首祚 春のはじめ
○○
初陽 春の日かげ
○○
新陽 初日のかげ
○○
開元 年のはじめ
●●
歳首 年のはじめ
○●
青帝 春のかみ
○○
三朝 元日のこと
(中略)
●○
餞春 春になること
●●
淑気 春になること
以下、【歳旦】の項が277ページまで続いています。
下段には、
【東】
●○○
帝城東 帝都のひがし
●●○
斗柄東 星がかはる
●●○
四海同 いづくも同じ春
●●○
瑞靄中 めでたきかすみの中
●○○
閃春風 はる風にきらめく
(中略)
【灰】
●●○
一樹梅 一もとのうめ
○●○
春色回 春の色が見えて来る
●●○
白玉堆 雲が堆くつもる
(中略)
【庚】
●●○
爆竹声 ほこら(←たぶん誤植)
●○○
洛陽城 みやこ
●○○
満皇城
(中略)
【転句】
○○●
三元首 年のはじめ
○○●
新年酒
○○●
顛狂客 酔いつぶれた客
○○●
春将動
○○●
祥光紫
○○●
歓無限 よろこびかぎりなし
○○●
春風底
○●●
醒又酔
【東】【灰】【庚】は百六韻のグループの代表を示すもので、各項目と同じ脚韻を持つ語ということです。また【転句】は絶句の三行目に使えるものがまとめてあります。もちろん○●が合うなら律詩で使ってもかまいません。
次回は、いよいよこの詩語表を使って、漢詩を作ってみたいと思います。