少し前の話になりますが、北京のスケージュールが変更され、あまりにひどいスケジュールに驚きの声が上がっていました。
ソチの時から、何故団体戦が個人戦の前なのかと疑問の声は上がっていました。
スケート関係者からも、個人戦を先にやるべきだという意見は出ていたと思います。
にもかかわらず、遂に男子は団体戦から個人戦が休みなしという酷いスケジュールになってしまいました。
ファンも関係者も誰一人として賛成していないだろうこのスケジュールを、ISUが絶対に変えない理由ってなんなのだろうとさすがに考えてしまいましたね。
ソチの頃、団体戦を創設した理由として
「団体戦を設けることで、全てのカテゴリで優秀な選手を育てることを目標とする」
といったようなお題目があった気がするんですけど、どう見ても個人戦の邪魔になっているだけですよね。
国によってカテゴリに偏りがあるのを少しでも是正したいというなら団体戦を個人戦の後にしても何の問題もないと思うのですが、明らかに個人戦の方が割を食っています。
これはどういうことなんでしょう。
コンディションを整えることができなくて選手にミスが続いたらフィギュアそのものの魅力が失われ、人々はそんな競技に関心を持たなくなり、長い目で見ればフィギュアの衰退に繋がりかねないのに、なぜ選手の負担を増やそうとするのか私は全く理解できないのです。
で、陰謀論を排除して合理的に説明できるかどうか仮説をいくつか立ててみたんですけど、最終的にはひとつしか思いつきませんでした。
あくまで私の想像の域を出ませんが、それは、ISUにとって大切なのは個人戦ではなく団体戦なのだという仮説です。
私達は、個人戦が本番で団体戦はオマケであると考えているので
「団体戦はお祭りみたいなもの。だから個人戦が終わってから団体戦を楽しくやればいいじゃん」
と思うわけですが、団体戦が本番で個人戦がオマケであると考えた場合、今まで続いたこの順番は全く矛盾がなくなるのです。
「団体戦が本番で個人戦がオマケなんて、そんなことあるわけないじゃん。団体戦はあくまで本番に向けての慣らし運転みたいなものでしょ?まあ、負担は負担だけどね」
と、平昌までの私ならそう考えていたと思います。
でも今回の、明らかに個人戦に影響が出そうなスケジュールを見たらそんな可愛いものじゃないことはわかります。
まあ、陰謀論者達の視点で見れば
「中国は男子シングルを捨ててメダルが狙えそうなペアを日曜日に当てたんだ」
とか、いくらでも考えられるかもしれませんが、それで言えば個人戦ではペアだけ中1日の休日無しです。
ベテランのスイハン組にはキツイスケジュールだと思うので中国がペアを優遇したのだという説は難しくなります。
「アメリカが中国を抱き込んで、ネイサンを勝たせるため他の選手の負担を増やそうとしているんだ」
という説も上がりそうですが、中国はアメリカがお咎め無しで自分達だけペナルティを食らった平昌の恨みをまだ忘れていないと思います(笑)
アメリカに加担するとは思えません。
それに、誰が団体戦に出てくるかは分からないのですから、誰かを潰すという作戦でスケジュールを変えるというのは不確定過ぎます。
そもそもアメリカは、枠はあってもまだ2枠しか埋まっていません。
ヴィンスがネーベルホルン杯で枠を確定しないと、アメリカも2人しかいないことになります。
誰かを温存するにはまず3人いないと話になりません。
想像だけで悪意を拡散しても明確な根拠には乏しいので、男子の無謀なスケジュールは陰謀論よりも何かしら開催側の都合と考えるのが合理的かと思います。
ここまでの流れを見る限り、ISUが団体戦に重きを置いているというのは確実だと思います。
個人戦に最高のパフォーマンスをしてもらいたいと考えたら、団体戦を先にしないでしょう。
でも、団体戦に全力を出して欲しいと考えているならこのスケジュールは合点がいき、だからこそ3度目の開催になってもそれを変えようとはしないのです。
各国にバランスの良い選手育成を促すというのも、現実的には無理なのがわかっているはずです。
バランスの良い選手育成は各国の連盟でどうにかできるものではなく、まず
「いつでも空いてりリンクがあって、リンク代が安くて、全てのカテゴリの指導者がいる」
そんな環境がないとどうにもならないんですよ。
そしてそういった環境は、団体戦で表彰台を独占している3ヵ国にしかないんですよ。
『ソチ』
1.ロシア
2.カナダ
3.アメリカ
『平昌』
1.カナダ
2.OAR(ロシア)
3.アメリカ
つまり、この3ヵ国以外の国はバランス良く選手を育てようと思ったら、これらの国に選手を送り込まないと育てられないわけです。
カップル競技のための練習リンクの確保。
どの国も、まずそこから無理なんです。
プロになって将来大金持ちになれるという夢があれば、そこに賭けてお金を出す親も増えるかもしれませんが、肝心のアイスショーは衰退気味です。
あのシルクドゥソレイユですらコロナで一気に破綻するのですから、ロシアと日本以外の国のエンタメ業界で、アイスショーが生き残るのは至難の業なんです。
将来稼げる場所がないと親もお金がかかるだけです。
成績が良くなければスポンサーもつきませんし、スポンサーがつかなければリンク代を維持することもできません。
北米ではアイスショーも壊滅的ですし、現役選手すらなかなか資金を稼ぐこともできない状態です。
無理矢理スターを作ろうとしても反感を買うだけで、それがむしろアイスショーから客足が減る原因のひとつにもなっています。
ショーで稼げないのであっても、コーチやインストラクターや振付師として生計が立てやすくするにはどうすれば良いか。
フィギュア界を良くするにはどうすれば良いか。
そうやって考えた結果
「メダルの量産」
という名誉の乱発にたどり着いたのかな?と、私はそう思うようになってきました。
つまり、プロフィールの粉飾です。
シングルの選手が個人戦で取るメダルは各ひとつずつ。
カップル競技はそれぞれに与えられますから各カップル2つずつです。
個人戦はトップオブトップの戦いですから、与えられるメダルの価値は理解できますが、団体戦はそうじゃありません。
本来ならメダル争いをするような選手でなくても、他の選手の成績によってはメダリストになれてしまうんです。
しかも、それぞれのカテゴリで選手をSPFSに分けて2人(組)ずつ出せば、最大、個人戦の倍の12個の金メダルが獲得可能です。
その中には個人戦ではメダルが絶対に取れないだろう選手達も含まれていますよね?
それでも、将来プロフィールには
「◯◯オリンピック金メダル」
って書かれるわけで、そこがなんだかモヤるわけです。
例え団体戦だったとしても、その肩書きがあるとないとではその選手の将来の価値が違うのだから、メダルの数が増えるのはフィギュア界では喜ぶべきことなのかもしれません。
特に北米ではフィギュアそのものが壊滅的で、そこで仕事を見つけるには五輪のメダルは絶対にあった方がいいんでしょう。
でも、団体戦は明らかに「選手を育成する環境が国によって違いすぎてフェアじゃない」んですよ。
ぶっちゃけこの3ヵ国しか全てのカテゴリで上位選手を揃えられないし、そしてそれは環境が違いすぎる以上、数年では変えられないんです。
つまり、メダルに値しないメダリストが、毎回この3ヵ国で何人も生まれるわけで、それが果たしてフィギュア界のためになるのか甚だ疑問なのです。
でも、アワードといい、ISUがスケーターやスケート関係者に煌びやかな上着を着せようとしているのは明らかだと思います。
他のプロ競技のように、フィギュア界も華やか世界にしたいんだと思うんですが、やるべきことはそこじゃないと思うのは私だけでしょうか。
今、20代の男子スケーターの多くはヤグプルの頂上決戦に胸を高ならせていたんじゃないかと思いますが、もちろん一般市民もあの時代はワクワクしていたんですよ。
あの頃のフィギュア界は、裏でどれだけドロドロしていたとしても、表ではガチンコ勝負が繰り広げられていて、それは確かに人々を惹きつけていたんです。
さらに、当時は北米のアイスショーも華やかで、メダルを取って引退したらアイスショーで大金が稼げる時代でした。
そんな時代はもう遠い昔になってしまい、今はもう「好きだからやっている」選手と、かつて選手だった関係者に支えられているマイナー競技のひとつになってしまっています。
で、フィギュア界がこんなにメダル至上主義になったのは何故でしょうか。
それこそ、アイスショーがあったからだと私は感じています。
昔、荒川さんの特集番組で、金メダルをどうしても取りたかった理由は、オリンピックのメダルがないとアイスショーからお呼びがかからないから、と言っていました。
当時のアイスショーはSOIなどが中心だったと思うのですが、北米のアイスショーがそもそもバリバリの「メダル至上主義」だったのです。
オリンピックくらいしかテレビ放送のなかった当時、ショーに観客を呼ぶには「メダリスト」の知名度が絶対に必要だったんでしょう。
荒川さんの夢はアイスショーに出ること。
アイスショーに出られれば、オリンピックが終わってもフィギュアを続けることができる。
フィギュアが大好きだから、ずっと続けていきたいから金メダルを狙う。
至って明快な理由です。
ところが、ネットの普及と共にフィギュアは選手個人の情報がメダルより重要になってきました。
メダルより、ネットに溢れている選手の行動や言動で
「応援したい」
と思う選手が変わるようになってきたのです。
魅力を感じる選手が必ずしもオリンピックのメダリストでなくても、今は動画で何度も「自分にとっての神演技」を繰り返し見ることができます。
メダルがなくても応援できるのです。
ISUにはその流れがわかっておらず、アイスショーに人を呼ぶために名誉の肩書きを量産しているように私には見えます。
本質を見誤っているんです。
じゃあ、なぜそこまでオリンピックのメダルを乱発したいのかということを考えると、そこはやはりメダルがあるのとないのとではアイスショーのギャラも変わるし、コーチになった場合でも知名度という点で格段にアップするからでしょう。
ショーのギャラはオリンピックのメダルや世界選手権のメダルで厳格に格付けされているんだそうです。
たぶんこれは、アイスショー華やかなる頃に北米で生まれた慣習なのだと思いますが、この厳格な格付けが「メダルヒエラルキー」と揶揄される所以だと思います。
以前タケシが「オリンピック金メダルになると桁が変わる」とテレビで言っていました。
つまり、最低でも一公演100万は行くということです。
あくまで一公演ですので、3公演あったら300万です。
でも、結弦くんはオリンピックの金メダルが2個なので、100万なんて金額ではないはずです。
もし単純に2倍の200万だったとして、FaOI幕張3公演で600万のギャラだったとします。
これが高いか安いかと考えたら、私は激安だと思います。
だって、1万円を払う観客が600人いたらペイできる金額なんですから、そんな安くはないはずです。
でもきっと、その金額を決めたのも「過去のフィギュア界」なんでしょう。
で、そういうことを考えると、メダルを持っていても集客につながる選手と繫がらない選手がいるのも事実です。
そうなると果たしてメダルだけでギャラを決めていいのかという疑問も湧いてきます。
ショーとして素晴らしいものを作り上げたければ、メダルをいったん置いといて、その選手の特性やショーに対する姿勢でギャラは変わっていいと思うのです。
しかし、伝統的に続いていたその慣習は、あくまでショーを盛り上げられる選手かどうかよりメダルを持っているかどうかで左右されていたので、今に至ってもメダルという肩書にこだわるのだと思います。
各国に各カテゴリの選手をバランス良く育てろというなら環境作りから始めなくてはいけません。
そして、アイスリンクに来る人を増やしたいなら「粉飾されていない人気選手」が必要です。
フィギュアが盛んではなかったペルーにアイスリンクが出来て、そこの壁に結弦くんの大きな写真が飾られているのを見た時、裾野ってこうやって広がるんだよなと嬉しく思ったものですが、ISUはさらに
「ペアもダンスもやれ!今すぐやれ!みんなやれ!」
と言っているんですよね。
ヨーロッパは伝統的にカップル競技が盛んで、シングルがあまり強くない印象です。
その国その国に好みも事情もあります。
ホッケー人気でアイスリンクが無数にある北米とは条件が違うのです。
そんな、ひとつのカテゴリしか選手が出せなくても、その選手に素晴らしい才能があれはメダルが取れるのが個人戦です。
環境があまり良くなくても、努力と才能でメダルを取れるかもしれないのが個人戦なのです。
本来オリンピックとはそういった夢のある舞台のはずです。
しかし、今のISUは貴族趣味というか特権意識が根強く残り、全てのカテゴリに選手を出す有力選手を有する国、特に上記の3ヵ国に名誉を与え続けているわけです。
アワードは、振付師や功労者など、選手以外にも賞があるのでそこは評価してもいいと私は思いますが、団体戦は個人戦の邪魔にしかなっていません。
私はむしろ、1人しか選手のいないような新参の国こそ歓迎し大切にして欲しいと思います。
そういった国が、これからのフィギュア界を支えていくのですから。
まあ、極論を言うなら、フィギュアを盛り上げたいと思うならまず採点システムをどうにかすることです。
ファンは後からいくらでも映像とハンドブックを見比べることができるので、そこを念頭において、最低限矛盾のない採点が出来るシステムを構築して欲しいです。
メダルを乱発したところで、そのメダルを生かせなければリビングの飾りになっておしまいです。
与えりゃスケーターが潤うわけじゃないのも分かっているはずです。
そこは根本的なものを変えていかなければ、いくらメダルがあっても将来に何の影響もないという未来が待っているだけです。
さて、スケジュールがあのままであるなら、男子はどのように戦うべきでしょうか。
私は、ファンが望むようにフィギュア界も結弦くんの3連覇を望んでいるとは思っていません。
名誉を乱発している人々からすれば、何がなんでも結弦くん以外に金メダルを与えたいでしょうし、そのための権謀術数巻き込まれるのも嬉しいことではありません。
だったら結弦くんは団体戦に集中するというのもひとつの手です。
SPFS両方を結弦くんが滑るのです。
だって、あと持っていないメダルは団体戦のメダルしかないんですから(笑)
まあ、現時点ではここしばらくパーフェクトを続けているSPを結弦くんにするか、それとも若手が2人団体戦に回るかのどちらかに思いますが、どちらであっても団体戦が負担であることは変わりありません。
先日の国別対抗戦では、練習が制限されているカナダが撃沈していましたが、流石にオリンピックに向けてではそうもいかないでしょう。
でも、ペアのりくりゅう組が劇的進化を遂げた今、日本がメダルを狙えそうなことも確かです。
もちろん、ファンとしては4Aを決めて3連覇し、コロナで落ち込んでいる日本を熱狂の渦に巻き込んで欲しいと思うところですが、それはまた険しい道のりであることも確かです。
メダルは、その価値を生かせる人間の手に渡るべきだというのは私の個人的な希望ですが、それを人がコントロールしようとしても結局はメダルの輝きが色あせてしまうだけのように思います。
ISUにはそこを十分に理解して欲しいと思います。
そして、全てをかけて戦うスケーターの足を引っ張るようなことのないよう、全てのスケーターが素晴らしい演技が出来るよう、これからも応援したいと思います。
以上
ソチの時から、何故団体戦が個人戦の前なのかと疑問の声は上がっていました。
スケート関係者からも、個人戦を先にやるべきだという意見は出ていたと思います。
にもかかわらず、遂に男子は団体戦から個人戦が休みなしという酷いスケジュールになってしまいました。
ファンも関係者も誰一人として賛成していないだろうこのスケジュールを、ISUが絶対に変えない理由ってなんなのだろうとさすがに考えてしまいましたね。
ソチの頃、団体戦を創設した理由として
「団体戦を設けることで、全てのカテゴリで優秀な選手を育てることを目標とする」
といったようなお題目があった気がするんですけど、どう見ても個人戦の邪魔になっているだけですよね。
国によってカテゴリに偏りがあるのを少しでも是正したいというなら団体戦を個人戦の後にしても何の問題もないと思うのですが、明らかに個人戦の方が割を食っています。
これはどういうことなんでしょう。
コンディションを整えることができなくて選手にミスが続いたらフィギュアそのものの魅力が失われ、人々はそんな競技に関心を持たなくなり、長い目で見ればフィギュアの衰退に繋がりかねないのに、なぜ選手の負担を増やそうとするのか私は全く理解できないのです。
で、陰謀論を排除して合理的に説明できるかどうか仮説をいくつか立ててみたんですけど、最終的にはひとつしか思いつきませんでした。
あくまで私の想像の域を出ませんが、それは、ISUにとって大切なのは個人戦ではなく団体戦なのだという仮説です。
私達は、個人戦が本番で団体戦はオマケであると考えているので
「団体戦はお祭りみたいなもの。だから個人戦が終わってから団体戦を楽しくやればいいじゃん」
と思うわけですが、団体戦が本番で個人戦がオマケであると考えた場合、今まで続いたこの順番は全く矛盾がなくなるのです。
「団体戦が本番で個人戦がオマケなんて、そんなことあるわけないじゃん。団体戦はあくまで本番に向けての慣らし運転みたいなものでしょ?まあ、負担は負担だけどね」
と、平昌までの私ならそう考えていたと思います。
でも今回の、明らかに個人戦に影響が出そうなスケジュールを見たらそんな可愛いものじゃないことはわかります。
まあ、陰謀論者達の視点で見れば
「中国は男子シングルを捨ててメダルが狙えそうなペアを日曜日に当てたんだ」
とか、いくらでも考えられるかもしれませんが、それで言えば個人戦ではペアだけ中1日の休日無しです。
ベテランのスイハン組にはキツイスケジュールだと思うので中国がペアを優遇したのだという説は難しくなります。
「アメリカが中国を抱き込んで、ネイサンを勝たせるため他の選手の負担を増やそうとしているんだ」
という説も上がりそうですが、中国はアメリカがお咎め無しで自分達だけペナルティを食らった平昌の恨みをまだ忘れていないと思います(笑)
アメリカに加担するとは思えません。
それに、誰が団体戦に出てくるかは分からないのですから、誰かを潰すという作戦でスケジュールを変えるというのは不確定過ぎます。
そもそもアメリカは、枠はあってもまだ2枠しか埋まっていません。
ヴィンスがネーベルホルン杯で枠を確定しないと、アメリカも2人しかいないことになります。
誰かを温存するにはまず3人いないと話になりません。
想像だけで悪意を拡散しても明確な根拠には乏しいので、男子の無謀なスケジュールは陰謀論よりも何かしら開催側の都合と考えるのが合理的かと思います。
ここまでの流れを見る限り、ISUが団体戦に重きを置いているというのは確実だと思います。
個人戦に最高のパフォーマンスをしてもらいたいと考えたら、団体戦を先にしないでしょう。
でも、団体戦に全力を出して欲しいと考えているならこのスケジュールは合点がいき、だからこそ3度目の開催になってもそれを変えようとはしないのです。
各国にバランスの良い選手育成を促すというのも、現実的には無理なのがわかっているはずです。
バランスの良い選手育成は各国の連盟でどうにかできるものではなく、まず
「いつでも空いてりリンクがあって、リンク代が安くて、全てのカテゴリの指導者がいる」
そんな環境がないとどうにもならないんですよ。
そしてそういった環境は、団体戦で表彰台を独占している3ヵ国にしかないんですよ。
『ソチ』
1.ロシア
2.カナダ
3.アメリカ
『平昌』
1.カナダ
2.OAR(ロシア)
3.アメリカ
つまり、この3ヵ国以外の国はバランス良く選手を育てようと思ったら、これらの国に選手を送り込まないと育てられないわけです。
カップル競技のための練習リンクの確保。
どの国も、まずそこから無理なんです。
プロになって将来大金持ちになれるという夢があれば、そこに賭けてお金を出す親も増えるかもしれませんが、肝心のアイスショーは衰退気味です。
あのシルクドゥソレイユですらコロナで一気に破綻するのですから、ロシアと日本以外の国のエンタメ業界で、アイスショーが生き残るのは至難の業なんです。
将来稼げる場所がないと親もお金がかかるだけです。
成績が良くなければスポンサーもつきませんし、スポンサーがつかなければリンク代を維持することもできません。
北米ではアイスショーも壊滅的ですし、現役選手すらなかなか資金を稼ぐこともできない状態です。
無理矢理スターを作ろうとしても反感を買うだけで、それがむしろアイスショーから客足が減る原因のひとつにもなっています。
ショーで稼げないのであっても、コーチやインストラクターや振付師として生計が立てやすくするにはどうすれば良いか。
フィギュア界を良くするにはどうすれば良いか。
そうやって考えた結果
「メダルの量産」
という名誉の乱発にたどり着いたのかな?と、私はそう思うようになってきました。
つまり、プロフィールの粉飾です。
シングルの選手が個人戦で取るメダルは各ひとつずつ。
カップル競技はそれぞれに与えられますから各カップル2つずつです。
個人戦はトップオブトップの戦いですから、与えられるメダルの価値は理解できますが、団体戦はそうじゃありません。
本来ならメダル争いをするような選手でなくても、他の選手の成績によってはメダリストになれてしまうんです。
しかも、それぞれのカテゴリで選手をSPFSに分けて2人(組)ずつ出せば、最大、個人戦の倍の12個の金メダルが獲得可能です。
その中には個人戦ではメダルが絶対に取れないだろう選手達も含まれていますよね?
それでも、将来プロフィールには
「◯◯オリンピック金メダル」
って書かれるわけで、そこがなんだかモヤるわけです。
例え団体戦だったとしても、その肩書きがあるとないとではその選手の将来の価値が違うのだから、メダルの数が増えるのはフィギュア界では喜ぶべきことなのかもしれません。
特に北米ではフィギュアそのものが壊滅的で、そこで仕事を見つけるには五輪のメダルは絶対にあった方がいいんでしょう。
でも、団体戦は明らかに「選手を育成する環境が国によって違いすぎてフェアじゃない」んですよ。
ぶっちゃけこの3ヵ国しか全てのカテゴリで上位選手を揃えられないし、そしてそれは環境が違いすぎる以上、数年では変えられないんです。
つまり、メダルに値しないメダリストが、毎回この3ヵ国で何人も生まれるわけで、それが果たしてフィギュア界のためになるのか甚だ疑問なのです。
でも、アワードといい、ISUがスケーターやスケート関係者に煌びやかな上着を着せようとしているのは明らかだと思います。
他のプロ競技のように、フィギュア界も華やか世界にしたいんだと思うんですが、やるべきことはそこじゃないと思うのは私だけでしょうか。
今、20代の男子スケーターの多くはヤグプルの頂上決戦に胸を高ならせていたんじゃないかと思いますが、もちろん一般市民もあの時代はワクワクしていたんですよ。
あの頃のフィギュア界は、裏でどれだけドロドロしていたとしても、表ではガチンコ勝負が繰り広げられていて、それは確かに人々を惹きつけていたんです。
さらに、当時は北米のアイスショーも華やかで、メダルを取って引退したらアイスショーで大金が稼げる時代でした。
そんな時代はもう遠い昔になってしまい、今はもう「好きだからやっている」選手と、かつて選手だった関係者に支えられているマイナー競技のひとつになってしまっています。
で、フィギュア界がこんなにメダル至上主義になったのは何故でしょうか。
それこそ、アイスショーがあったからだと私は感じています。
昔、荒川さんの特集番組で、金メダルをどうしても取りたかった理由は、オリンピックのメダルがないとアイスショーからお呼びがかからないから、と言っていました。
当時のアイスショーはSOIなどが中心だったと思うのですが、北米のアイスショーがそもそもバリバリの「メダル至上主義」だったのです。
オリンピックくらいしかテレビ放送のなかった当時、ショーに観客を呼ぶには「メダリスト」の知名度が絶対に必要だったんでしょう。
荒川さんの夢はアイスショーに出ること。
アイスショーに出られれば、オリンピックが終わってもフィギュアを続けることができる。
フィギュアが大好きだから、ずっと続けていきたいから金メダルを狙う。
至って明快な理由です。
ところが、ネットの普及と共にフィギュアは選手個人の情報がメダルより重要になってきました。
メダルより、ネットに溢れている選手の行動や言動で
「応援したい」
と思う選手が変わるようになってきたのです。
魅力を感じる選手が必ずしもオリンピックのメダリストでなくても、今は動画で何度も「自分にとっての神演技」を繰り返し見ることができます。
メダルがなくても応援できるのです。
ISUにはその流れがわかっておらず、アイスショーに人を呼ぶために名誉の肩書きを量産しているように私には見えます。
本質を見誤っているんです。
じゃあ、なぜそこまでオリンピックのメダルを乱発したいのかということを考えると、そこはやはりメダルがあるのとないのとではアイスショーのギャラも変わるし、コーチになった場合でも知名度という点で格段にアップするからでしょう。
ショーのギャラはオリンピックのメダルや世界選手権のメダルで厳格に格付けされているんだそうです。
たぶんこれは、アイスショー華やかなる頃に北米で生まれた慣習なのだと思いますが、この厳格な格付けが「メダルヒエラルキー」と揶揄される所以だと思います。
以前タケシが「オリンピック金メダルになると桁が変わる」とテレビで言っていました。
つまり、最低でも一公演100万は行くということです。
あくまで一公演ですので、3公演あったら300万です。
でも、結弦くんはオリンピックの金メダルが2個なので、100万なんて金額ではないはずです。
もし単純に2倍の200万だったとして、FaOI幕張3公演で600万のギャラだったとします。
これが高いか安いかと考えたら、私は激安だと思います。
だって、1万円を払う観客が600人いたらペイできる金額なんですから、そんな安くはないはずです。
でもきっと、その金額を決めたのも「過去のフィギュア界」なんでしょう。
で、そういうことを考えると、メダルを持っていても集客につながる選手と繫がらない選手がいるのも事実です。
そうなると果たしてメダルだけでギャラを決めていいのかという疑問も湧いてきます。
ショーとして素晴らしいものを作り上げたければ、メダルをいったん置いといて、その選手の特性やショーに対する姿勢でギャラは変わっていいと思うのです。
しかし、伝統的に続いていたその慣習は、あくまでショーを盛り上げられる選手かどうかよりメダルを持っているかどうかで左右されていたので、今に至ってもメダルという肩書にこだわるのだと思います。
各国に各カテゴリの選手をバランス良く育てろというなら環境作りから始めなくてはいけません。
そして、アイスリンクに来る人を増やしたいなら「粉飾されていない人気選手」が必要です。
フィギュアが盛んではなかったペルーにアイスリンクが出来て、そこの壁に結弦くんの大きな写真が飾られているのを見た時、裾野ってこうやって広がるんだよなと嬉しく思ったものですが、ISUはさらに
「ペアもダンスもやれ!今すぐやれ!みんなやれ!」
と言っているんですよね。
ヨーロッパは伝統的にカップル競技が盛んで、シングルがあまり強くない印象です。
その国その国に好みも事情もあります。
ホッケー人気でアイスリンクが無数にある北米とは条件が違うのです。
そんな、ひとつのカテゴリしか選手が出せなくても、その選手に素晴らしい才能があれはメダルが取れるのが個人戦です。
環境があまり良くなくても、努力と才能でメダルを取れるかもしれないのが個人戦なのです。
本来オリンピックとはそういった夢のある舞台のはずです。
しかし、今のISUは貴族趣味というか特権意識が根強く残り、全てのカテゴリに選手を出す有力選手を有する国、特に上記の3ヵ国に名誉を与え続けているわけです。
アワードは、振付師や功労者など、選手以外にも賞があるのでそこは評価してもいいと私は思いますが、団体戦は個人戦の邪魔にしかなっていません。
私はむしろ、1人しか選手のいないような新参の国こそ歓迎し大切にして欲しいと思います。
そういった国が、これからのフィギュア界を支えていくのですから。
まあ、極論を言うなら、フィギュアを盛り上げたいと思うならまず採点システムをどうにかすることです。
ファンは後からいくらでも映像とハンドブックを見比べることができるので、そこを念頭において、最低限矛盾のない採点が出来るシステムを構築して欲しいです。
メダルを乱発したところで、そのメダルを生かせなければリビングの飾りになっておしまいです。
与えりゃスケーターが潤うわけじゃないのも分かっているはずです。
そこは根本的なものを変えていかなければ、いくらメダルがあっても将来に何の影響もないという未来が待っているだけです。
さて、スケジュールがあのままであるなら、男子はどのように戦うべきでしょうか。
私は、ファンが望むようにフィギュア界も結弦くんの3連覇を望んでいるとは思っていません。
名誉を乱発している人々からすれば、何がなんでも結弦くん以外に金メダルを与えたいでしょうし、そのための権謀術数巻き込まれるのも嬉しいことではありません。
だったら結弦くんは団体戦に集中するというのもひとつの手です。
SPFS両方を結弦くんが滑るのです。
だって、あと持っていないメダルは団体戦のメダルしかないんですから(笑)
まあ、現時点ではここしばらくパーフェクトを続けているSPを結弦くんにするか、それとも若手が2人団体戦に回るかのどちらかに思いますが、どちらであっても団体戦が負担であることは変わりありません。
先日の国別対抗戦では、練習が制限されているカナダが撃沈していましたが、流石にオリンピックに向けてではそうもいかないでしょう。
でも、ペアのりくりゅう組が劇的進化を遂げた今、日本がメダルを狙えそうなことも確かです。
もちろん、ファンとしては4Aを決めて3連覇し、コロナで落ち込んでいる日本を熱狂の渦に巻き込んで欲しいと思うところですが、それはまた険しい道のりであることも確かです。
メダルは、その価値を生かせる人間の手に渡るべきだというのは私の個人的な希望ですが、それを人がコントロールしようとしても結局はメダルの輝きが色あせてしまうだけのように思います。
ISUにはそこを十分に理解して欲しいと思います。
そして、全てをかけて戦うスケーターの足を引っ張るようなことのないよう、全てのスケーターが素晴らしい演技が出来るよう、これからも応援したいと思います。
以上