羽生結弦は、スケートの怪物です。

自分の弱点に素直に向き合い、クレバーな頭脳でそれを克服し、確実に、しかも周りの人間達の予想より遥かに早く成長していきました。

それまでの日本男子は、そのメンタルの弱さから
「ガラスのハートばかり」「共通点は気持ちの脆さ」「へたれ王子ぞろい」
と揶揄されていました。

そんな中に、勝つためならどんな壁にでも自らぶち当たり、乗り越える前に壁ごと崩して突き進むメンタルモンスターが表れたのです。


しかも、その勝負強さだけではなく、才能、ビジュアル、頭の良さなども兼ね備えています。
リアル出来過ぎ君と言われるのも当然といった少年でした。


しかし、それだけの少年なら、私はここまで好きにはなりませんでした。


私はギャップ萌えする人間です。
お利口さんなだけの子供に興味はないのです。

私が羽生結弦に強く惹かれたのは、あの子が弱点だらけの人間だったからです。



あの子のメンタルは、決して人より強いわけではありません。

そのメンタルの強さが発揮されるのは、スケートの勝負に向かっている時だけで、しかも、戦いに赴く際には、自分を守るため、ラッキーチャームで周りをガチガチに固めているのです。

オーサー曰く
「あの子は驚くほど縁起をかつぐ(直訳すると、迷信深い)」
だそうですが、その最たるものがプーさんとあのネックレスです。

もし、ライバルが羽生結納弦を貶めたいと思ったら、方法は簡単です。
ネックレスとプーさんを捨ててしまえばいいのです。

多分、それだけであの子は100%の演技が出来なくなるのではないでしょうか(笑)


プーさんは、羽生結弦にとっては「ライナスの毛布」です。
プーさんを抱えながら精神を落ちつけているのです。



仙台にいた時は阿部奈々美コーチが抱え、カナダに移ってからはオーサーコーチが抱えてウロウロ歩いているので、羽生結弦のコーチになるということは、プーさんの面倒をみなければいけないということです(笑)
(たとえプル様といえど、今後ゆづのコーチになるようなことがあったら、アレの面倒は見てもらうからね!)



↑滑走前のバックヤードの映像で、こんなん流れたら、「可愛いらぶ1」って思う前に吹き出しちゃいますよね。
「男たちの戦い」とかってテロップで、こんな映像流しちゃいけないでしょ(笑)

いや、可愛いんですけどね(笑)



ネックレスの方は、プーさんとは違ってかなりオカルティックな存在です。

あれは、結弦くんが子供の頃からお世話になっている、仙台の整体師、菊地晃さんが、結弦くんに最も適した「気」を込めて作っているものだそうです。

喘息というのは、疲れや不安でも発作が出るため、精神と体調を整えるよう、患者のチャクラを見れるという菊地さんが、結弦くんのために作ってくれているお守りなのです。


そんなものが効くのか?なんて突っ込むのは意味がありません。
信頼していれば確実に効くのです。


お守りという点では、常にしているパワーストーンのブレスレットも同じです。

あれはお母さんが作っている(買っている?)らしいのですが、石を見る限り、水晶、天眼石、ムーンストーン(orミルキークォーツ)等々、「魔除け、厄除け、目的成就」の力が強い石を選ばれているようです。




これは、怪我の多い息子の身を気遣い、あらゆる厄災から守るために手をつくそうとする、母親の精一杯の「愛情お守り」なのでしょう。

衣装にもそのこだわりは生かされていて、デザインのジョニー・ウイアーに「ラッキーカラーは緑とピンク」とお願いして作って貰ったのだそうです。



↑緑とピンクのビジューが付いた衣装はこれですね。



ただ、この石達は、怪我や事故から身を守るだけではなく、結果として邪気払いの役目も果たしているように思われます。

フィギュアの世界は嫉妬や権力争いなど、選手の周りは良からぬ気に満ちあふれています。

ケリガンとハーディング事件や、オリンピックの買収事件。果ては自分が応援する選手を勝たせたいファンによる嫌がらせなど、上げていったらきりがないほどです。

日本選手達はみんな仲がいいのですが、周りはそうとも言えないわけです。


メダルの色がすぐさまお金に直結するのですから、悪意を持って近づく人間なんていくらでもいるのです。


ネックレスやブレスレットは、結果として、それらの邪気から結弦くんを守ってくれているようにも思うのです。


羽生結弦を呪ってはいけません。
それはキッチリと返されます。

自分や自分の愛する人が不幸になりたくなければ、羽生結弦に邪気を飛ばしてはいけないのです。


他にも、霊感体質でソチのグランプリファイナルの時はホテルが古かったことから
「お化けが出るから一人じゃ寝られない」
といってスタッフの部屋に転がり込んできたという話もあります。

本当にお化けを見たのか、それともただビビリなだけなのか、私にはわかりませんが(笑)そういった意味でもお守りは絶対に必要なのだと思います。



お守りだけではありません。
あの子はジンクスにも左右されます。

自分で決めたルーティンを一通りこなすことで、精神を少しずつ落ち着けていくのは、「それをやらなかったからコケたんだ」的な考え方をしてしまうからです。

壁を叩いて後ろ向きにテイクオフ。
肩と腰を水平にし体の軸はまっすぐに、身体に思い出させるように線を書き、身体の中心を確かめるように手を合わせます。

おまじない的なルーティンは、見えるものだけで大体このくらいあります。



「羽生結弦は強運だ。あの子は、目の前に幸運の扉が見えた時、その扉に指をかける強さがある」
というようなことを荒川静香さんが言っていましたが、確かにそうなのです。


努力も才能も根性も確かに人の何倍もありますが、羽生結弦を取り巻く人達の愛に溢れたお守りで、あの子は強運を呼び込んでいるのです。




とは言え、メンタルモンスターの羽生結弦ではありますが、その怪物の中に、泣いて怯える小さな子供がいるのを。時として垣間見ることがあります。

それが、2012年のGPシリーズ、スケートアメリカでしょう。

この時、なんと、カナダからの出国手続きが間に合わず、結弦くんだけみんなより1日現地入りが遅れたのだそうです。

選手の体調管理には万全を期す立場のオーサーはオロオロしていたそうなんですが、結弦くんは「自分、逆境大好きですから。トラブルだって、開き直ってかえって落ち着くんですよ」とケロリとしていたのだそうです。

満足な練習無しで会場入りした少年に、周囲の誰もが「今回は仕方ないな」と思っていた中で、なんと!羽生少年はショートを完璧に滑り切り、歴代最高点をたたき出しました。

コーチもマスコミも呆れるほどの強さです。
2位の小塚崇彦に10点近くの差をつけての独走でした。




フリーの直前練習でも全くペースは落ちず、ガンガン4回転を飛びまくる18歳に、これは凄いスコアが出るぞとマスコミは大騒ぎしたそうです。

しかし、6分間練習まで完璧だったのに、いざ演技が始まったら、4コケする大乱調。ジャンプだけじゃなく得意のスピンまでレベルを落とす、ボロボロの有様でした。

何と言っても「羽生結弦の黒歴史」ですので、ファンの皆さんはネットに上げてくれません(笑)
動画を探すのも一苦労でした。




こんな演技でも、2位に留まれたのは、ショートで10点差をつけていたことと、なんだかんだ言ってもジャンプの回転は足りていたこと。

それと、カナダで数ヶ月じっくり取り組んだことでスケーティングスキルが上がって、プログラムコンポーネンツが伸びていたためです。

見た目はボロボロでしたが、ひとつひとつのエレメントは完成されていたため、思ったほど酷い点数にはならなかったのです。



しかし、こんな酷い演技になった原因はなんと
自分で思い込んだジンクス
だったのです。

つまりショートがダメならフリーがいい。ショートが良ければフリーがダメ。
自分は(というかスケーターのほとんどが)2本揃えることが出来ない。
そんなジンクスに凝り固まって、自分で押し潰されてしまったのです。

試合直後のインタビューでは相変わらず冷静にコメントしていましたが、その後、馴染みのライターさんに話した言葉が残っています。

「だって僕、ショートでノーミスなんて、ほとんどしたことないんですよ! ショートが良かったら、絶対フリーはボロる。それがいつものパターンなんです」

「自分はショートとフリー、両方をそろえられないんだ。気付かない間にそんな気持ちに、フリーの前、なってしまったんですね。今回もきっと、失敗するのかもしれない、って……」

 「逆にショートがそこそこの演技なら、フリーの方は完璧にできる、その自信はありました。ショートとフリーはいつも揃えられないこと……自分では、心の底でわかってた。わかってたからこそ、落ち着かなきゃ! って思いが募った。そのことに、とらわれ過ぎていた。それが今回の、敗因だと思います。
 そのことに気づいたのは、試合が終わった夜です。ホテルに帰って、人と話していて、フリーの前の自分の気持ちを、初めて口に出した。その瞬間……涙が出て、止まらなくなりました。ああ、僕、こんなに不安だったんだ、って。気持ちがやっと、口から出てきたな、って。
 ショートが終わって、結果に浮ついて、そのなかで冷静になれ、冷静になれって……自分で意識して、気持ちを落としていきました。落としながら、いろいろなこと考えちゃった。考え過ぎて、自分が『ショートがうまく行ったら、フリーはダメ』ってことにとらわれ過ぎてる、その意識まで、たどりつかなかった。終わって、口に出して、やっと敗因に気づいたんです」



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そう。
羽生結弦は強いのではありません。

強がっているのです。
強くありたい、強くあらねば、と思っているだけなのです。

そして、あの少年の凄いところは、こういった経験から必ず何かを学び取り、自分自身を成長させることです。

「ショートが良かった時に『落ち着け。まだフリーが残っている』とやって気持ちを静めていくと本番でパンクする。だから、ショートが良かった時は、その時点でとりあえず喜んでおく。そうして気持ちをリセットすることで新たな気持ちでフリーに行くようにした」

というのは後日のコメントですが、確かにその後、フリーの大コケは無くなりました。

あの子は強いわけじゃありません。
何も感じない化物ではないのです。

人より聡いぶん、むしろ傷つき易いのです。


ただ、その明晰な頭脳で、すぐさま自分に何が起きたのかを分析し、回答を導き出し、実践したあとでケロリと何事もなかったようにマイナスのイメージを忘れるのです。

自分を守るための努力も怠らず、なおかつ自分を高めるために思考し続ける。

この少年の凄いところは、それを至極自然に、しかも毎日やっているというところなのです。


逆に言えば、才能だけの人間や、努力だけの人間では羽生結弦には勝てないということです。

パトリックチャンはメンタルの消耗戦で自滅しました。

「大きなことをとりあえず口にし、それを実行するように努力する」
という結弦式の方法を取り入れ、町田語録を連発して(笑)メンタルを鍛えてきたまっちーも、羽生結弦の闘争心を上回ることができませんでした。

ハビエルに至っては、勝ってしまいそうになったら逆にビビるかもしれないくらい、ゆづのすぐ下にいる自分に満足しています。


羽生結弦が自分で自滅しない限り誰も勝てないのか?
もしかするとそうかもしれませんが、今後自滅はあまり期待できないかもしれません。

世界選手権のショートで3位になった時、ショートがダメな時は必ずフリーでミラクルを起こしてきた結弦くんにオーサーが言いました。

「じゃあフリーで凄い点数を出すか」

それに対し結弦くんの返事は

「やるさ!」


もう、不安で泣いていた子供はいません。

私達は、羽生結弦という怪物がどこまで成長していくのか、楽しみに待っていればいいのです。


つづく