午後一は旦那の会社の同僚が面会に来てくれた

旦那が会いたいと言ったのだ

本当は親族以外は面会は禁止だ

受付で待たされたが主治医から許可が出たということで通された

最後になって知ったが、主治医は病院で一番偉い医師だった

だから受付で主治医の名前を出したら制限なく面会ができた

制限がないと言っても一回で入室できるのは3人までだ

それを代わりばんこで面会する

会いたい人には会わせてくれた

そこは感謝している

会社の同僚は結局2人だったので私も同席すると思っていたようだが一回会社に行くことにした

私がいると話せないこともあるだろうというのもあった

2時間ほど仕事したらまた夕方病院に行って面会する予定だ

そうしないと仕事が間に合わない


私の仕事は顧客の都合に振り回される

連絡を待っているが一向にメール返信がない

このままでは面会できない

昨日のことがあったのでもうこれ以上は待てない、行かないと後悔すると思い思い切って会社を出た

後からその顧客はメール送信のボタンを押してなかったそうだ

いつも抜けたことをする顧客だがこんな時にそんなポカをされるとは

電話はきたがもう今日は対応できないと断った


予定していた16時から10分ほど遅れて病院に着いた

旦那の看護師のお姉さんが待っていた

2人で話して、話すと旦那を疲れさせるからただ見守るだけにしようと決めた

ベッドに着くと旦那は寝ていた

酸素は90台になっている

午前中は70になったりしていたのに上がってホッとした

もしかしたら肺炎はよくなるかもしれない

看護師のお姉さんと寝ている旦那を見守った

旦那を起こさないように物音を立てないようにしていたがしばらくして旦那は目を覚ました

私とお姉さんがいたのでびっくりしていた

お姉さんは病院の看護師にしばらく2人きりにさせてやってくださいとお願いした


○○、私だよ

静かに声をかけた

私が泣くから○○が泣いてしまうんだね

ごめんね

泣かないように頑張るよ


そしてもう酸素マスクでキスもできない旦那のおでこにキスをした

旦那は私の顔を見つめた

私の顔を撫でて何か言いたそうだったけど何も言わなかった

私の髪を撫で、確かめるように私の体を撫でた

そして強い力で私を抱き寄せた

私も旦那の肩を抱いた

愛している

そう言葉で伝えられたか覚えていない

でも2人の気持ちは同じのはずだ


しばらく愛を確かめ合っていたら、そろそろ時間ですと看護師が来た

私はもう5分だけそばにいたいとお願いした

5分だけならと了承してくれた

旦那の手を握った

また看護師が来た

もう5分はダメですか?と聞いたらこの後も処置があるのでダメだと言われた

旦那は手で帰れと合図した

もしかしたら意識がないかもしれないと思っていたけど旦那はちゃんとわかっていた


旦那が言葉を発しないのが気になっていた

今日はたくさん人が来て疲れたのかもしれないと思った

それにしゃべると酸素が低くなるのでそれでしゃべれないのかもしれない

でも旦那の様子に少し不審を感じていた


病院から帰りぎわ看護師からご主人着替えの時にパニックになってしまったんですと告げられた

パニック?

お姉さんはそうなんですかと答えた

パニックとはどういうことだろう、心臓は高鳴ったが聞かなかった


夜はみんなで食事をすることになっていた

せっかくみんなが揃ったからだ

私はこんな食事をする気にはとてもなれなかった

さっきの旦那の様子が気がかりだった

なぜしゃべれなかったんだろう

もしかして意識がなかったんだろうか

私を抱きしめたのは夢の中だったんじゃないか


主治医から電話がきた

お昼ご主人に話しかけても反応しない時があったと言われた

脳の出血のせいもあるかもとのことだ

一昨日旦那自身も時々頭がボーッとするんだよなと言っていた

意識が飛んだのか?

今夜変化があるかもしれないと言われた

それならこれから病院に行ってはダメですか?と聞いたら夜はどうしても病院の規則で無理だと言われた

何かあれば電話しますということだった

病院からの電話だったのでみんな何だった?と心配して聞いてきた

私はほんとのことを言えなかった

ちょっと意識が飛ぶ時があると言われたと答えた


ろくにご飯は喉を通らず食事を終えた

みんなは明日になればよくなると私を励ました


この後眠れない長い夜を過ごすことになった