- レキシントンの幽霊
- 1996年11月文藝春秋 1999年10月文春文庫
村上春樹 レキシントンの幽霊 を読みました.7つの作品が入った短編集です.
初版が1996年ですが,作品は90年全般に書かれたもの多いです.最近の東京奇譚集
などの短編集と比較すると,全体のトーンが暗く,わかりにくい印象の作品が多いように思えます.
「レキシントンの幽霊」
☆☆☆+
小説家の僕(まるで作者を思わせる)は,ある友人の家の留守番を頼まれました.その家には,古いジャズ・レコードがいっぱいありました.深夜になると,そのレコードのある部屋から,あきらかに,人の気配を感じるのでした・・・果たして誰かいるのでしょうか,
それとも幽霊??
友人の父は,その奥さんが死んだあとの3週間の間眠り続けた,というエピソードが出てきました.何かこのエピソード,「アフターダーク 」を思わせました.
「緑色の獣」
☆☆☆
あるとき,突然,庭が盛り上がって緑色の獣が出てきました.そいつは,主婦の私の所に,やってきます.どうやら心が読めるようでした・・・たった9ページしかありませんが,怖い夢のような内容でした.
「沈黙」
☆☆☆☆+
僕の編集担当と思われる大沢さんは,ボクシングをやっていてます.実は一度だけボクシング以外で人を殴ったことがあるそうです.中学のときのことでした.でも,それが原因で彼は高校3年のとき,陰険ないじめを受けたのでした・・・彼はだんだんと無気力になっていきます.
あるとき,陰険ないじめを仕掛けた張本人と電車の中で目と目が合い睨み合いました.初めは怒りの感情が占めていたのですが,だんだんと不思議な感情になってきたのです.<本当にこの程度のことで人は得意になったり,勝ち誇ったりできるものなのか?このくらいのことでこの男は本気で満足し,喜んでいるのだろうか>そう思うことで,陰険ないじめから一人立ち直っていくのでした.
この作品を読むと,あらゆる,いじめがいかにつらく心を病むか,それからいかに立ち直るきっかけをつかむのか,みたいのが,わかりました.人間関係で疲れたとき,読み直すとより心に響くのではないかと思いました.
印象的な大沢さんのセリフの引用で,この紹介文を終わります「・・・でもね,僕は思うんです.たとえ今こうして平穏無事に生活していても,もし何かが起こったら,もし何かひどく悪意のあるものがやってきて,そういうものを根こそぎひっくりかえしてしまったら,たとえ自分が幸せな家庭や良き友人やらに囲まれていたところで,この先何がどうなるかはわからないんだぞって.」
残りの4編は次回・・・
村上 春樹レキシントンの幽霊
- 村上 春樹レキシントンの幽霊