その女はどうしようもなくのろまだった。
不器用で何をするにも人の3倍以上の時間がかかる。歩くのもゆっくり。話すのもゆっくり。瞬きするのもゆっくり。水汲みひとつ満足に出来ない有様だった。
子供達に「ウシ」と呼ばれて嗤われてもエヘラエヘラと笑い返すばかり。
その女はどうしようもなく鈍かった。
転んで血を流してもボンヤリしていた。
頻繁に金を落とすくせに一度も取り戻せた事は無かった。
目の前で誰かが女の悪口を言っていてもそれが悪口だと判るまでに半日以上の時間がかかった。
子供達は女を見ると喜んで石を投げつけた。
その女はどうしようもなく愚かだった。
村が日照りで苦しんでいたあの夏に、一人でどこかに消えてしまった。
子供達は皆飢えて死んだ。村人達は逃げ出した女の事など考えることはなかった。
2日程すると雨が降り始めて村は助かったが女は戻らない。
そうして女が戻らなくなってから20日目のある日、村に祈祷師がやってきた。
祈祷師の手には角の生えた一筋の槍が握られていた。
その槍を握ると油でベタベタした。
その槍を持つと重くて使い物にならなかった。
その槍を使っても何一つ貫く事が出来なかった。
祈祷師は槍を無理矢理置いていったが、村人達は気味悪がって誰一人として近寄らない。
槍は誰にも使われる事の無いまま、今でも村の片隅でひっそりと眠っている。
~雑記~
もどかしく、もの寂しく、外は楽しそうな喧騒に溢れている。
ただ、愚鈍な自分自身が取り残されて、過ぎていっている。
自身の刃を鍛え、研ぎ澄まし、錆び付かせない様にするしかないと思っている。
いつか、その刃を振るう時を願っている。
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