スカイツリーに来た私達は
隣接する建物にある
最上階のレストランへとやって来た。


「いらっしゃいませ。」
ウェイターが私達に声をかけてきた。
Mさんは予約している事を伝えると
「こちらでごさいます。」
ウェイターは笑顔でそう言うと、
キラキラ光り輝く明るい店内へ促し、
中階段にあるソファー席へと案内した。

『す、すごい!』

私は今にも声に出してしまいそうな思いを
グッと飲み込み、冷静に着席した。

ドリンクメニューを見て、注文すると、
「本日は記念日のコースで承っております。
 順にお食事をお持ちします。」
ウェイターはそう言って下がった。





しばらくしてドリンクが届き、
Mさんが乾杯しようと言った。

乾杯?

まぁ、とりあえず乾杯か。

「結婚記念日、おめでとう。
 これからもずっと一緒にいようね。」
笑顔でMさんが言った。

私はグラスを傾けることなく、
グビッと一口飲んだ。

「めでたいかどうかは分からない…
 それに、ずっと一緒にはいないよ。」
私はスカイツリーを見上げながらそう言った。
「え?一緒にいないの?」
「うん。いない。」
「え?何で?」

何で…
普通は嫌だろ。何故分からないんだ…

「C君は家族でいる事を望んでるから、
 すぐにいなくなるとかはないけど…

 高校受験が終わればね。」

「Aちゃんは俺が嫌いって事?」
「嫌いじゃないよ、大嫌い(笑)
 って言うのは冗談で〜
 Mさんとは気が合うし、楽しいし、
 特に今は家事も手伝ってくれるし、
 良いんだけど……
 ずっと一緒って約束はできない。」
「僕は今日の為に頑張ったよ。
 Aちゃんが喜んでくれて嬉しいし…」

壊れた夫婦って、難しいな…

「私もMさんとこうして外出して楽しい。
 でも、それって友達感覚なんだよね。
 女子会?みたいな(笑)
 家に帰れば同居人。
 役割分担があって、
 それぞれが家事をこなして、
 子供を育てて、
 それぞれ仕事して、毎日を過ごす。
「うん…」
「Mさんとは楽しいけど、
 もう好きになりたくない。
 …あんな、苦しみも、悲しみも、傷みも、
 思い出したくないし、
 また繰り返したくない。
 だから、本当なら離婚して、
 お互い元気に暮らして、
 C君の親として、知り合いとして、
 友達みたいにたまに会うのが理想かな。」

好きになりたくない、とは言うけれど、
私の中で好きになるのを抑えているような…
やっと、冷静な自分になってきた。
だから、今更『愛だの恋だの』嫌だった。

「もう、そんな事はないから!
 ずっと側にいるから!」
「そうね〜。
 ま、人生どうなるか分からないよ。
 Mさんに恋人がいたように、
 私にも恋人ができるかもしれない(笑)」
「え?」
「いやいや、例えです(笑)
 貴方だって、これが最後の恋だと思って
 彼女を愛してたんでしょう?
 でもまた私に戻った。
 ね?どうなるか分からない(笑)」


Mさんは不倫の話をされて
バツが悪くなったような苦笑いをした。


「お待たせいたしました!」
前菜のタワーがやってきた。
「おぉー!」
「うわー!」




ほらね、2人だと喜びも2倍。
楽しい事を楽しむ、それでいい。


いや、それがいい。