大願成就 | 至峯舎・染織家のひそひそ話

大願成就

ある方のブログを拝見し、思い出しました。




「お陰様で一つの結果を得ることが出来ました」


以前、一人のお客様から頂いたお手紙です。




その半年程前の、ある展示会での出来事です。


何かを必死にお探しになる一人のお客様。


そして一枚の着物の前で立ち止まられ、凝視…




何かございましたらどうぞお声掛け下さい、


というつもりで私が軽く会釈をすると、


「これは、何の着物ですか?」


待ってましたとばかりに漠然としたご質問。




それが訪問着であるということから、


生地素材について、染色方法について、


柄のモチーフについてご説明…


を、し終えるまでもなく


「こちら、頂きます。」




その後、お仕立のご相談などを済まされ、


少し落ち着いたご様子で


改めてお話し下さいました。




…それは既に他界されたお母様の思い出。


お客様が中学校にご入学される時に、


倹約家でおられたお母様が


その日限りの着物姿で


晴れの日に花を添えて下さったそうです。


お客様はそのお姿を深く心に刻まれ、


いつか自分のこどもにも同じことを、


と思い続けてこられたそうです。




「ではお子様のご進学が…」


と言い掛けて、よく考えると時は9月。


「今、高校3年生の息子がいて、


来年大学を受験するんです。」




早過ぎるご準備。


私が少し言葉を探していると


「いいんです。息子を信じてますから。」




親思う心に勝る親心とやら…




お見分けになった訪問着は


上に向かって伸びる大文字草の図。


花言葉は「慕う」。


力いっぱい大の字に開く花は


大願成就を意味します。






お月様は優しい時間を届けてくれます。


受験シーズンに向かう折、ご自愛下さいませ。


ご健闘をお祈り申し上げます。