続き

 

日本植物バイオテクノロジー学会 2日目のランチョンセミナーの話。

 

「キャリアの様々な形」というテーマで、2つの講演を興味深く聴くことができた。

  • 年収 1000 万円のポスドクを生み出せるか?
  • 学術系クラウドファンディングサイト「academist」の 10 年史

ざっくりいうと、少子高齢化でこれからの大学や研究、アカデミア業界の未来は暗い。

大学の先生は国にもっと金を出せと要求するが、高齢者の医療費などの社会保障費が年々増加するのに対して学生は減る一方なのに、大学に大きなお金が降ってくるわけはない。

科研費が倍増したり、常勤のポジションが増えたりするわけもない。

 

じゃぁ〜、自分たちで稼ぐしかないんでないの?っていうのがテーマだ。

 

 

一つ目の「年収 1000 万円のポスドクを生み出せるか?」は、起業しましょう、副業しましょうって話。

大学の先生が今やっている仕事は、研究コンサルティングや情報収集、論文執筆、学生の研究指導、データ解析、試薬作りなど、多岐にわたる。

起業っていうと、ある程度のまとまった資金を集めてスタートアップ、研究成果を発展させたモノづくりを想像しがちだが、そんな大掛かりなものじゃなくても、大学で普段やっている業務の延長で、コンサルティングや論文添削、データ解析サービス、培地を作って売るっていうようなものでも起業や副業できるよ、ってな話だった。

 

「年収1000万円のポスドク...」は煽り気味なタイトルで、外部資金雇用のポスドクが副業をするわけにはいかないと思うが、副業可の大学教員や研究者ならそれもありかも…

(兼業できるポジションください)

 

しかしまぁ、研究コンサルティングや論文添削、データの受託解析、企業に培地を作って販売ってのは、確かに商売にはなるかもしれないが、ある意味、企業やビッグラボの下請けだよね?

小遣い稼ぎにはなると思うけれど、それが幸せかどうか…

(実際、秘境研究所では受託研究や共同研究でそれに似たようなことをやっていたが、想像以上に大変よ)

 

どちらかというと、そういう作業を外注してプロダクティブな仕事に集中したいから研究費をくれと言っている研究者の方が多いと思う。

アルバイトに明け暮れて勉学が疎かになる学生みたいになったら本末転倒だよなぁ〜。

 

バイオベンチャーで実質的に最終産物を世に出して成功したのは、RNAワクチンなどごく一部(あるいは詐欺まがいの...)

産業として成り立っていないので、大掛かりなプラントを作ってのモノづくりは難しそう。

儲かっている会社のほとんどは、シーケンサーやPCRなど研究支援のための道具を売っている会社だ。

あたかもゴールドラッシュで一番儲かったのがジーンズや斧を売った会社というのに似ている。

 

ソーラーシェアリングや植物工場を立ち上げた農業系ベンチャーは相次いで解散したし、バイオエネルギー関連は胡散臭いのが混ざっているし、植物バイオ系で起業して儲けるのはハードルが高いと思うぞ。

 

ちなみに、科研費を獲ってきて、自分の立ち上げたベンチャーに外注で解析を丸投げすれば、研究費をマネーロンダリングできるというライフハックがあるらしい(良い子は真似しないように)

いや、外注できるだけの研究費を獲ってこれれば、起業しなくてもいいんだがな。

 

 

二つ目の「学術系クラウドファンディングサイト「academist」の 10 年史」の話題は、クラウドファンディングで研究資金を集めましょうという話。

 

これもなぁ〜、テーマを選ぶよなぁ〜。

大衆に迎合するテーマというのは、玉石混淆で、ああ詐欺師が暗躍する未来が見えるぞ〜。

*「菌をまいたら川が綺麗になる」**「線虫が尿の匂いでガンを判定する」***「ミドリムシでジェット機を飛ばす」†「なんかかけたら植物が大きくなる」††「血液占い」「DNA占い」なんて眉唾物のものばかり巷に溢れそう。

 

でも、相談だけでもしてみると、「こういう話の進め方があるよ」という提案があり、コンサルティングの結果、研究費の申請書を添削してブラッシュアップしてもらえるってことか?

これ、いいかも...

 

あれ?、これって、一つ目の話で起業するつもりが、二つ目の話では起業家にお金を払って申請書を添削してもらいましょうって話になってる…(笑)

 

う〜む…

 

P. S. 

最近、話題になっていた高齢ポスドクの悲哀の記事。

「自分の人生は失敗だった」 国に翻弄された元高齢ポスドクの半生 | 毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20240917/k00/00m/040/076000c 

 

 

PubMedやResearchmapで検索しても筆頭著者の論文がほとんど出てこないんだが...

下手に研究者と名乗って新聞記事に取り上げられると、検索されちゃうから、論文は書いておかねば。

 

いさなみすやお💤

 

<脚注>

*「菌をまいたら川が綺麗になる」 

度々話題になる有用微生物群EM菌。効果がないばかりか、他所から持ってきた菌は生態系破壊や環境破壊につながる恐れがあるので不用意にまかない方がよい。

 

**「線虫が尿の匂いでガンを判定する」 

胃内で線虫がガン細胞周辺に集まっていたことから、線虫が尿の匂いを嗅いでガンを判定できると言い出したバイオベンチャー企業がある。しかし、その判定結果の報告は芳しくない。おそらく線虫は胃酸を分泌している通常胃壁細胞の極端な酸性pHを嫌って、中性pHのガン細胞周辺に集まっていたのではないかと…

 

***「ミドリムシでジェット機を飛ばす」 

ミドリムシから生成された油を1%程度廃油に混合して、それを10%ジェット燃料に混ぜて飛行機を飛ばすと… 0.1%程度なら水でも飛ぶのでは?とか、廃油に混ぜた1%の油を生成するために使われたエネルギーはどのくらい?とか、ツッコミどころが多い。

 

†「なんかかけたら植物が大きくなる」

 〇〇酵素、〇〇〇ペプチド…それって根拠となる論文あります?... えっ、論文には「野生株では効果はない」と書いてるって?

 

††「血液占い」 「DNA占い」 

血液型やDNA検査で、性格や病気になりやすさを判定。性格なんて複数の遺伝子座によって制御されているだろうし、その日の気分でも変わるようなものが、単純な血液型や一つの遺伝子座とリンクしているわけはないのだ。ある種の病気のなりやすさは確かに特定の遺伝子座のDNA多型でわかるのだが、そういった病気はほんの一握り、しかも、なりやすさ=必ずなるというわけでもない。米国のセレブ芸能人みたいに予防的手術をするほどのお金も度胸もないのに、「病気のなりやすさ」だけわかったところでなぁ~...

新型コロナのPCR検査と同じで、検査をしたところで結果の有効な活用法もなく、何ら対処方法も変わらないなら、検査をする意味はあまりない。趣味で検査してもらう分には問題ないが、結局トンデモ医療を紹介されたり、高価な壺やサプリを買わされたりしそう。


南無...