:血の系譜 (謎の光り) | 小林茂子オフィシャルブログ「生きてみよ、ツマラナイと思うけど」Powered by Ameba

:血の系譜 (謎の光り)

病院へ着く頃には辺りは明るくなっていた。

弟を病室に運ぶと、すぐにお巡りさんは弟の衣類一式をビニール袋に詰めた。

その際ポケットに入っていた小銭を渡してくれた。

勿論履いていたスニーカーも回収された。


お巡りさんに家まで送って貰いたかったが、さすがに言い出せなかった。

この格好でタクシーを止めるのは勇気がいるが、致し方ない。

とりあえず一旦家に帰り着替えて出直そうと弟の側に寄ると


『か、ね、が、な、い』

と言う。

寝たきりの分際で金は必要あるまい!

『すぐに戻るから』


と言うと、どうやら所持金が無くなっていると言いたいらしい。

『いくら持ってたの?』


と聞くと3万円以上はあったと言う。

しかし私も立ち合いポケットの中の物を調べた際は200円ほどしかな

かった。

この際ほとんど口の利けない弟を相手にしてる場合ではない。


早くNHKに連絡しなくてはならないし、出勤時間前には赤坂を去らね

ばならない格好だ。

とりあえずNHKに連絡して着替えて戻るからと弟と病院に伝え私は髪

で顔を隠しタクシーを拾った。

帰り道事故現場を通るとパトカーや大きなライトを付けた車で現場は騒

然としていた。

家に戻り前乗りしていたスタッフに事情を伝える頃には私の携帯電話

は使い物にならなかった。

掛けようとすると掛かって来る。

『三木助さんが事故を起こしたと聞いたんですが…容体は』


『お姉さんのお気持ちは?』

三木助さんが事故を起こしたから私は大変忙しいのだ。

入院の準備もしなくてはならないし、口が利けないから時間はかかる

し、左半身動かないから三木助さんはイライラしているし…。

芸術祭の件は落語協会にお願いして、病院に行かねばならない。

口が利けなかったら噺家は廃業だし、左半身麻痺でも廃業しなくては

ならない。

申し訳ないがマスコミのインタビューどころではない。

マスコミが押しかける前に逃げ出さなければならない。


母には一切何も教えずインターフォンと電話の線を抜き、余計な事喋る

と 『盛夫を恨みます』 みたいに成田離婚の二の舞だよ!と脅して病院へ向かった。