いばら姫LOVE AGAIN

 <第十四章>ユウの回想

 

 

ユウはその時、雅の病室のすぐ外にいた。

朝に具合を悪くした彼女が心配で、

様子を覗きに来たのだ。

 

 

 

あの時、自分の代わりにマンションの渡り廊下から

雅が転落した時

彼はそれまで自分を包んでいた、モヤのような思考の塊が

すうっと晴れていくのを感じていた。

 

“俺は、なんてことをしてしまったんだ!”

 

すぐに救急車を呼んで、

意識のない雅の手を握り締める。

そして、普段はまったく

信仰もしていない神様に向かって

彼は何度も祈ったのだった。

 

『雅が俺の事を全て忘れてしまっても構いません。

だから彼女を、彼女の命を助けてください!』

 

 

 

 

・・・・・そしてそれは、現実になった。

 

他はほぼ、いつもと変わらないのに

『自分のことだけ忘れられている。』

 

その状態がどれだけキツいものなのか、

彼は思い知らされていた。

 

雅に「私の事、ご存知なんですか?」

と、聞かれた時の

例えようもないショックが、忘れられない。

 

そうこうしている間に、

雅の会社の人が尋ねてきた。

中年の男と若い男。

 

そして、若い男は明らかに

雅を特別な目で見ていた。

何回、「彼女は俺のものだ」と言おうとしたことか。

 

だが、彼は自分にはそんなことをする権利など

無いのではないか?と考えていた。

 

自分から彼女に”夫”だと名乗ることもできたし

その機会は何度でもあった。

 

だが彼はそうしなかった。

出来なかったのだ。

 

 

 

そんなことを考えていると、

「ユウくん?」と呼ばれる。

 

雅だった。

 

 

 

 

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