いばら姫LOVE AGAIN 

<第十三章>急接近 その2

 

 

看護師が飛んでくると、

内藤くんが、雅から慌てて離れた。

 

「山中さん、どうなさいました?」

「これ、どうぞ。」

彼女が内藤くんの持ってきた

アップルパイを差し出す。

 

「あら、悪いわね~。」と、

看護師が受け取り

去っていく。

 

 

「・・・・・・。」

彼はしばらく何か言いたそうに、黙っていた。

 

「あの、気持ちはありがたいんだけど

私は一応旦那さんも居る身だし、

そういうのは、困るよ。」

 

「でも、忘れてるんでしょ?」

じっと見つめられる。

強くて真っ直ぐな視線が怖かった。

 

「思い出せそうなの。もう少しで。」

雅は言う。

嘘ではなかった。

「ただ、あと少しってところで頭が痛くなるの。」

 

本当に、なぜ記憶が抜けているのかが分からない。

だけど、旦那さんの事が嫌だったわけではない事は

分かっていた。

 

むしろ思いが強かったからこそ、

なのかもしれない。

 

「来てくれて、ありがとう。

でももう、”一人では“来ないで。」

雅は勇気を出して言った。

 

同じ会社だし、嫌われるのはイヤだったが

気を持たせるのは性に合わない。

 

だから、はっきり言う事にした。

 

「・・・・分かりました。」

明らかに、がっかりした顔だった。

 

つい、情が移りそうになるが

見ない振りをする。

 

「ごめんね。」

彼女が言うと、彼は雅の手をぎゅっと握った。

 

「山中さんが、旦那さんこと

本当に好きなら、諦めますよ。

だけど、旦那さんの事を思い出したときに

そうじゃなかったら

俺の事、見てください。」

 

彼は耳元でそう囁くと、

去っていった。

 

 

 

雅は長いため息をついた。

 

 

 

 

クリック <第十四章>へ